第8話

 テニス部のエースと、留学生が試合をする。

 そんな触れ込みを聞きつけ、多くの野次馬が集まって来た。


 純粋にリリィの実力を見たいやつが四割。

 リリィと美聡のユニフォーム姿に釣られたアホが六割と言ったところか。


『先行は差し上げます』

「あら、いいの? 最初の得点、もらっちゃって」


 美聡はニヤニヤと笑いながらそう言った。

 そんな美聡に対し、リリィは涼し気な表情で答えた。


『ええ、私は貴族なので』


 テニスの“サーブ”の語源は“サーヴァント”である。

 従者が主人にボールを打ち、主人がそれを打ち返す。

 そういう貴族の遊びがテニスの起源だ。


 リリィは貴族であることをひけらかすようなタイプではないが……。

 ここでの「私は貴族なので」は、「私は強いから、雑魚に譲ってやる」くらいのニュアンスだろう。


 そんなリリィの煽りは、美聡にしっかりと届いたらしい。


「そう! 悪いけど、サービスはしないから!」


 美聡はそう言うとボールを上げ、勢いよく打ち込んだ。

 さすが、テニス部のエースなだけはある。

 誰もが決まったと、思っただろう。


『はぁっ!』


 しかしリリィはそれを打ち返した。

 サーブの時よりも、さらに早い勢いでボールは打ち返される。


 美聡はそれを打ち返せず、得点が一点入る。


「っく……」


 美聡は悔し気な表情を浮かべた。

 そんな美聡に対し、リリィは得意気な表情を浮かべた。


『これが日本のエースの実力ですか? 随分と……っふ、弱いんですね』

「……潰す」


 美聡の顔から余裕が消えた。

 そんな美聡にリリィは笑みを浮かべながら、サーブを打ち込む。


 美聡はそれを打ち返す。

 リリィも打ち返す。

 徐々にリリィの顔から余裕の色がなくなる。


『っち』


 リリィは忌々しそうに舌打ちをした。

 一点を取った美聡は、そんなリリィに笑いながら言った。


「イギリス人とは違って、日本人は貴族にサービスなんてしないのよ」


 お前、自分のこと強いと思ってるみたいだけど、それサービスでしょ?

 日本じゃ通用しないから。


 そんなニュアンスはしっかりとリリィに伝わったらしい。


『……殺す』


 リリィの顔が本気(マジ)になった。


「がぁぁああ!」

『はぁああああ!!』


 試合は増々ヒートアップしていき、二人の口から女の子とは思えないような気合いの声が漏れだす。

 国を背負った戦い(?)は縺れに縺れ、長引いた。


 そして最終的には五セット目で……。


『勝った!!』

「ま、負けた……」


 リリィが勝った。

 ガッツポーズをしたリリィは一目散に俺の方に駆けてきた。


『ソータ!! 勝ちました!! あなたに勝利を捧げます!!』


 汗だくで、息を切らしながらリリィは俺にそう言った。

 捧げられても困る。


『あ、あぁ、うん。おめでとう……さすが、リリィだ。勝つと信じてたよ』


 取り敢えず、リリィを褒めた。

 するとリリィは嬉しそうな笑みを浮かべた。

 ボールを咥えて来た犬みたいだなと、俺は思った。


『ご褒美、ください』 

『……ご褒美?』


 いきなりご褒美と言われても……。

 一体何をすればよいというのだろうか?

 そんなことを思っていると、リリィは俺に頭を突き出してきた。


『撫でてください』

『は、はぁ……まあ、良いけど』


 言われるままに俺はリリィの頭を撫でた。

 美しい銀髪は汗に濡れてもなお、艶やかで手触りが良かった。


『ふふん』


 リリィは俺に撫でられながら、なぜか美聡の方を向いた。 

 自慢気な顔だ。

 一方の美聡は苦笑しながら、こちらに近づいてきた。


「まさか、負けるとは思ってなかったよ。アメリアちゃん、本当に凄いね」

『気持ちの力です。あなたには負けません』

「っく、そ、そう……」


 リリィのよく分からない回答に、美聡は噴き出した。

 二人にしか分からないギャグなのか……?


「またやりましょう。次は負けないから」


 美聡はそう言ってリリィに手を差し出した。

 リリィは少し驚いた表情を浮かべてから、美聡の手を握った。


『ええ、もちろん』


 本当に喧嘩して友情を深めたな……。

 うん、まあ、いいことか。





 クラブ活動を終え、下校間際に美聡からメールが来た。

 文面には「この女誑しめ」と書かれていた。


 意味が分からん。


___________


頭なでなでシーンは挿絵候補の一つです。

作者のモチベーション維持と宣伝のためランキング順位は高いにこしたことはないので

リリィちゃんの可愛いイラストが見たい、この女誑しめ、失礼だな純愛だよ、と思って頂けたら、フォロー・評価(☆☆☆を★★★に)して頂けると

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