第6話
午後の授業時間は係員決めやアイスブレイクなどに費やされ、放課後になった。
ここからは部活動の時間だ。
「では、そーた。テニスクラブ、いきましょう」
リリィは準備満帆と言わんばかりにテニスラケットを持ちながら言った。
俺は部活動では、テニスクラブに所属している。
昨晩、その話をしたら、リリィは「なら、私もそのテニスクラブに入ります」と自分のラケットを持って来た。
日本に来る時、イギリスから持って来ていたらしい。
「あぁ、うん……そうだな。更衣室、どうしようかな」
当然、俺は女子更衣室には入れない。
別に複雑なルールがあるわけではないが、全く説明もなしに送り出すのは少し不安だ。
誰か女子に頼もう。
そう思っていた時だった。
「やっほー、聡太。何? その彼女もテニスクラブに行くの?」
クラスメイトが俺の肩に腕を回してきた。
快活な笑顔が素敵な、黒髪セミロングの美少女だ。
ややスカートが短めで、制服をお洒落に着崩している。
「離れろ、美聡。あと、彼女じゃない」
少女の名前は河西美聡。
身内贔屓ではあるが、この学校で一番の美少女だ。
リリィが留学に来る前までは、と注釈が付くが。
「えー、聡太の彼女がホームステイに来たって聞いたけど。その子じゃないの? 自己紹介でも言ってたじゃない」
「それは勘違いだ」
俺はそう言いながらリリィの顔色を確認する。
俺の恋人扱いされて怒るかと思ったが、そんな様子はない。
どちらかと言えば「ぽかん」とした顔をしている。
もしかしたら“彼女”を“Lover”や“Girl frend”と変換できなかったのかもしれない。
“She”と被ってるし。
「リリィ。彼女は河西美聡。俺の……友人だ」
授業ですでに自己紹介は行われたが、あらためて紹介する。
美聡は俺の肩から腕を外し、リリィに近づいた。
「友人なんて他人行儀だなぁ。河西美聡です。美聡でいいわよ。えっと……リリィちゃんでいい?」
美聡は親し気にリリィに話しかけた。
一方でリリィはそんな美聡の態度が癪に障ったらしい。
僅かに眉を顰めた。
「アメリア・リリィ・スタッフォードです。アメリアと、よんでください。アメリア、です」
「ふーん、そう。なるほどね。……よろしくね、アメリアちゃん!」
美聡はニヤニヤと楽しそうな笑みを浮かべてからそう言った。
それから俺を肩肘で突いてきた。
「なに? ミドルネームで呼んでるの? 随分、親しいじゃない。……本当に彼女じゃないの?」
「親しいのは否定しないが……」
『早く、行きませんか?』
俺と美聡が話していると、リリィはやや不機嫌そうな声でそう言った。
……そう言えば、美聡は女子テニス部に所属してたっけ。
「美聡、リリィを更衣室に案内してやってくれないか? これから、部活だろ?」
「いいわよ! じゃあ、アメリアちゃん。行きましょう!」
「……わかりました」
リリィは寂しそうに俺の顔を見てから、肩を落としながら美聡の後をついて行った。
俺と離れて不安なのかもしれないが……。
あまり俺に依存し過ぎるのも良くない。
それに美聡は俺ほどではないが、それなりに英語が話せる。
問題ないだろう。
リリィを見送った俺は男子更衣室へと向かった。
私――河西美聡は噂の美少女留学生、アメリアちゃんを女子更衣室まで案内した。
『ここが更衣室ね。体育の時とか、着替える必要があったら使ってね。学生番号とロッカーの番号は一致してるから。間違えないように。鍵はないから、盗まれたくなかったら自分で南京錠を買ってきてね』
アメリアちゃんに英語で説明すると、彼女は小さく頷いた。
そして辺りを見渡し、自分の学生番号と同じ番号のロッカーを開けた。
どうやら、私の英語はちゃんと通じたらしい。
『早く着替えましょう』
「ええ、そうですね」
私の言葉にアメリアちゃんは上手な日本語で答えた。
少し舌足らずなところが可愛い。
私はノーマルだが、ちょっとゾクっとしてしまった。
なるほど、男子たちが色めき立つわけだ。
「うわっつ、足ほっそ……『スタイルいいね』!」
胸とお尻は大きく、腰は折れそうなほど細い。
何より、足がとても細くて長い。
日本人離れしたスタイルの良さだ。
『……あまりジロジロ見ないでください』
私の言葉にアメリアちゃんは、恥ずかしそうに両手で体を隠した。
真っ白い肌がほんのりと赤く色づいている。
……可愛い。
『ねぇ、聞いて良い? アメリアちゃん』
「にほんごで、いいですよ」
「そう。分からなかったら言ってね! アメリアちゃんって、日本にどうして来たの?」
やっぱり、聡太を追いかけて来たの?
揶揄うつもりでそう尋ねたら、アメリアちゃんは躊躇なく答えた。。
「はなよめしゅぎょうです」
想像の斜め上の回答だった。
驚く私にアメリアちゃんは何故か、勝ち誇った表情を浮かべた。
「そういうあなたは、そーたと、どういうかんけい、ですか」
リリィちゃんは上から目線で――私の方が身長は高いけど、私に尋ねた。
しかしよく見ると不安そうに目を泳がせている。
今度こそ、揶揄ってやろう。
「そこそこ、親しい関係かな。友達以上ではあるわね」
「ふ、ふーん」
「具体的には一緒にお風呂に入ったことがあるかな?」
私がそう言うと、アメリアちゃんは大きく目を見開いた。
『え? はぁ……!? 今、なんて!?』
『一緒にお風呂に入ったことがある』
私の言葉にアメリアちゃんは顔を真っ赤にさせた。
びっくりし過ぎて、英語が出てしまっている。
……可愛い。
『なーんてね。九歳の頃までの話よ。今は……友達よ。今は、ね』
そう、私と聡太が“特別に親しかった”のはその頃まで。
今ではただの友達だ。
もっとも、この子よりはよっぽど、聡太のことを知っている自信はある。
何しろこちらは、赤ちゃんの頃からの付き合いだ。
そんな私の余裕が伝わったのだろうか。
『今は私が一緒に暮らしています』
アメリアちゃんは私を睨みながら、張り合って来た。
これは宣戦布告かな?
「っふ……そ、そう。『頑張ってね』」
思わず、口から笑いが漏れてしまった。
アメリアちゃんから立ち上る殺気が、強まるのを感じた。
面白いなぁ。
聡太も最近は揶揄い甲斐がないし。
よし、今日からこの子で遊ぼう。
____
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