第4話 マルクスの進歩史観

私はマルクスの「資本論」を読んだことがない。18歳の時に知り合いに本の内容を教えてもらった。だが、それを聞いた時は一種の嫌悪感を感じたものである。

「資本論」によれば、経済(社会体制)にもいろんな形態があり、原始共産制から始まるのだという。やがてそれが「歴史的必然」によって奴隷制に移行するという。

その奴隷制は、「歴史的必然」によって封建制に移行し、封建制もまた、「歴史的必然」によって資本主義に移行する事になっている。

マルクスによれば、社会体制の「進歩」はこれで終わりではない。やがて資本主義も「歴史的必然」によって、社会主義になり、最後に共産主義になるが、これも「歴史的必然」によってである。

だがこの考え方は「進歩史観」と呼ぶのではないか。

私が「資本論」に嫌悪感を感じたのは理由があった。その三年前にHGウエルズの「宇宙戦争」という小説を読んで感動していたのだ。

この小説は今から100年以上前に発表されたにもかかわらず、「進歩史観」を批判しているのだ。

「進歩史観」は批判されなければならない。なぜなら環境破壊や人種差別といった、人類が克服せねばならない問題は「進歩史観」がもたらした。

もっとも、「マルクスの進歩史観」と「一般の進歩史観」は全く同じではない。

「マルクスの進歩史観」は純粋に社会体制の進歩を意味しているが、「一般の進歩史観」はずばりサイエンスとテクノロジーの進歩を意味している。

しかし、「マルクスの進歩史観」を疑う事の出来なかった人間が、「一般の進歩史観」を疑うだろうか。そんなはずはない。だから、共産主義を信じているひとは誰もが「一般の進歩史観」を疑っていないはずである。

すると、「環境活動家」とか「ポリコレ」の人たちは矛盾していることになる。彼らは共産主義だから「進歩史観」を信じるが、その一方でカーボンニュートラルや人種の平等といった「反進歩史観」を主張している。要するに環境問題や人種差別の原因を理解していない。

そもそも、「歴史的必然」って何なんだ。そんな概念がどこから湧いて出たのか。

根拠が全く無いではないか。

という事は一種のオカルトではないか。

そのせいか、共産主義のロジックも破綻していると思う。

ちょっと想像してみて欲しい。日本に革命が起こって、社会主義の国になった時のことを。

社会主義、共産主義とは平等主義のことである。貧富の差を無くさなければならない。

だからまず、国民から財産を没収するわけである。その直後にすべての国民に同じ額(額が平等という意味)の財産を与える。そこから「よーい、どん」で社会主義経済をスタートさせる。

最初の世代が独身の間はそれでいいだろう。

だが子供ができたらどうするのか?

社会主義、共産主義とは平等主義のことだから、最初の世代だけでなく、その子孫も平等にしなければならない。

そのためには二代目やそれ以降のスタートラインを揃えなければならない。

だが、下の世代のスタートラインは上の世代にとってはゴールを意味するのではないか。

だから上の世代のゴールを揃えなければ、下の世代のスタートラインが揃わないはずである。

しかしこれを「結果の平等」と呼ぶのではないか。

「結果の平等」がどうして駄目なのかというと、「因果応報」と対立するからである。

どの世代にも「努力する人」と「努力しない人」がいるわけである。「努力する人」の給料の額が増えたり出世したりすると、次の世代以降が不平等になる。

だから、すべての人間のスタートラインを揃えるためには、すべての世代の結果を平等にせねばならない。

つまり、努力が報われない社会を作るしかない。

こうして、「社会主義の日本」は誰も努力しない社会になったのだった。

工場の労働者が努力を放棄しただけでは済まない。医者も警官も努力を放棄したのである。

また、社会主義、共産主義の社会では、すべての労働が奴隷労働である。

努力が報われないだけでなく、労働者がモチベーションを持たないからである。

それは何故かというと、「私有財産を否定」しているから。

「クルマが欲しいから頑張って働こう」という意欲を持つ事が許されないのである。これではただのディストピアである。




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