その9 第三の【唯一無二】の存在(王太子視点)
今まで聞いてきた【唯一無二】の思念は、「【主】との出会いを心待ちにしている」若い個体か「【主】を待ち続けて疲れ切った」「【主】を失って無気力になった」老いた個体かの2種類にわかれていたけれど、この【杖】はそのふたつとは少し違う感じがするね。
ささいな違和感に、つい声の元と思われる方向へと足を踏み出していた。
(やから、なんでコッチ来んねんな。アンさん魔力ヤバ過ぎやで。ここのドレさわってもコナゴナ一直線やから、さわったらアカンでぇ……って、ゆうたかて、どうせ聞こえてないんやろなぁ。あー、ほんまケッタイな世界にトバされてもうたわ。しかもオレが『魔法の杖』ってなんやねんな。どこのメガネ君の世界やの。どんな世界でもええけど、なにがしんどいて、誰とも話されへんのんが一番ツラいんよ。誰でもええから会話プリ〜ズ! ギブミーと〜く!! ……知ってた。返事ないって知ってたけど、黙ってるほうが気ぃ変になりそうやねん。ほんま、なんでなん? オレなんか悪いことしたん? 『ピッタリの相方に出会いたい』て、思てたんは覚えてんねんけどなぁ。あー、やっぱアカン。思い出そうとしても記憶がつかまらへんのん腹立つわ。くっそ、絶対今よりイケメンやったはずやのに! いや、杖と人間でどう比べんねん! って、しょうもな。オレひとりやったら普通のツッコミしか浮かばへんのが
おかげでさっきの違和感の正体に気づけたよ。
この思念は物じゃなくて人間視点なんだね。
全面的にこの思念を信じるのなら、別の世界にいた人間が【唯一無二】になっているということになるけれど。
そんなこと、あり得るのかな。
今まで聞いてきた他の【唯一無二】は別の世界の話などしていなかった。
この思念の持ち主だけが他の【唯一無二】とは違う? そもそも本当に【唯一無二】なのかな。
「お、王太子殿下。気になる品が見つかりましたか?」
おっといけない。
店の中には店主も護衛もいたのだったね。
「あぁ安心して欲しい。無駄に壊したくないから不用意に触れなどしないよ。私はもう普通の剣も杖も持たないと決めている。きっと私には、私の【唯一無二】でないと合わないのだろうと思ってね。【唯一無二】は近くに居合わせれば自然と耳飾りに変化すると聞いて、王都最大のこの店に来たのだけど。これだけ近づいても変化がないということは、どうやらここに私の【唯一無二】はないみたいだね」
我ながら説明ゼリフだとは思うけれど、目の前にいる思念がどう反応するのか知りたかった。
(『唯一無二』て運命の恋人のことちゃうやったんか! 今まで聞くたんびに、『なんでこんな倉庫で恋バナしとんねん』思てたけど。耳飾りに変化ぁ? オバケか妖怪なん?)
【唯一無二】が丨【唯一無二】《自分のこと》を知らない?
今まで聞いてきた思念はみな、丨自分の
それに、この思念は、あれこれよくわからない表現を使う。オバケはわかるけど、ヨーカイがわからない。
別の世界というのに信憑性が出てきたね。
「店主、私の【唯一無二】を探す手がかりにしたいから、【唯一無二】のことを教えてほしい」
「では
私はすでに知っている内容だったが黙って聞く。思念も口をはさまず聴き込んでいる。
・【唯一無二】は成長できる武器や防具
・【主】と出会わなければ、ただの物と同じ
・【主】との初対面で【唯一無二】は主の耳を飾る姿に自動的に変化する
・出会えたらお互いの能力が上がる
・【唯一無二】と【主】の絆が深まれば意思の疎通ができるようになる
・【唯一無二】の姿は成長とともに変化する
・【主】つきの【唯一無二】は他の【唯一無二】を攻撃することがある
「今のところ、わかっているのはこれくらいなのです。【唯一無二】は【主】と出会わなければ【唯一無二】だとわかりません。見た目で判断できないため、たとえ手元にあったとしてもなかなか気づけず、情報も少なくて」
手元にあっても気づかない。まさにその通り。
「いや、ありがとう。よくわかったよ」
「恐悦至極に存じます」
なにしろ店主の話を聞いた思念がさっきから大興奮しているからね。
(オレ【唯一無二】とかゆうのやったんか! だから他の杖はしゃべらんのか! あぁーアイシーアイシー。理解りかい。なーんや。安心したわ。なんで知らん世界で杖になってんのて思てたけど、相方に会えるからやん! 唯一無二の相方に! この世界は、オレの『ピッタリの相方に出会いたい』て願いを叶えてくれるんやな! よっし。それやったら待てる! 全然余裕や! 未来の相方、楽しみにしときぃや! 丨未来の
「【唯一無二】と【主】はお互いの魔力を共有します。ですから、王太子殿下の【唯一無二】ならば、殿下と同じか、それ以上の魔力路を持っているということ。もしも出会えたら、魔力操作力が少なくとも倍に上がり、普通の武器や防具なども壊さず身につけられるようになるでしょう」
あぁ、私が最初に「無駄に壊したくない」と話したからかな。
今までの私なら、「私と同じ魔力路を持つ【唯一無二】などこの世に存在しないだろう」と悲観していたところだけど。
「そうだね。出会いたいと願っていれば出会えるかもしれないね」
店主の真摯な言葉と、途切れなく続く、はしゃいだ思念に、なんだか「自分も出会えるんじゃないか」と、珍しく前向きな気持ちになれた。
「そうですとも! 私はなにごとも希望ありき、願いがあってこそだと考えております。すべての【唯一無二】に【主】と出会ってほしい。それが私の願いでもあり、原動力です」
「へぇ。素晴らしいね」
なるほど。だから切実に【唯一無二】を求めている私に親身になってくれたんだね。
「恐縮です。ただ単純に、あの出会う瞬間に立ち会いたいというのもあるのですが。まぁ実際のところ、そんな奇跡はそうそうございません。ですが【唯一無二】でなくとも、お客様にお似合いの物を販売できたときは、格別に嬉しいものです」
店主は心から幸せそうに笑った。
「ふふ。なんだか本当に出会えそうな気がしてきたよ」
「きっと出会えますよ」
そういえば、献上された【剣】も、私と私の【唯一無二】との出会いを願ってくれていたね。
今まで願うことすらバカらしいと思っていたけれど、私も願ってみようかな。
どうか私の【唯一無二】と出会えますように。
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