その7 私は『魔法の杖』だから!
「……い、おいっ! 大丈夫か? くそっ。こうなったら水でもかけ……てもいいものなのか?」
んん〜?
このふわふわな感触は王太子が用意してくれた杖用ベッドだぁ。
(うぅ。ごろごろ転がりたいのに動けないぃ)
「良かった! 無事だったんだな! 消えてしまったかと心配したぞ」
(あれ? なんで弟王子? ここ、王太子の寝室だよね? ま、まさか)
「落ち着け! なにを考えてるか知りたくもないし、とにかくそれは絶対に間違ってるからそれ以上は考えるな! いいな? よし。……私はただ
(なぁんだ。そんなの気にしなくていいのに。私なんかそこらに置いといていいよ。今の私は杖なん、だ、し……うっ。ひっ、うぅ〜)
王太子が、新たに見つかった【唯一無二の剣】に会いに行ったのを思い出した私は、有名アニメ映画みたいにぼたぼた涙を落とした。
まぁ杖だから目はないし、涙も出ないんだけども。気持ち的に。
「おい、なんで泣く?」
(おうだいじがぁああ、あだじをずでるぅ)
「兄上がお前を捨てるわけ無いだろ!」
(わだじは剣じゃないがらぁ)
「【杖】でなければ兄上の魔力を扱えないと思うが」
(じゃあなんで私というものがありながら他の【唯一無二】に会いに行くの!? イイ感じの剣だったら乗り替えるつもりなんでしょ? そうとしか思えないぃっ)
「……もし、もしも兄上がお前を手放すのなら、私がお前の【主】になりたいと言ったら、どうする?」
(ふぇ)
「私はお前を剣扱いなどしない。大事に唯一の杖として尊重する。だから――」
(王太子がいい!)
「っぐ。即答か。どうしてそんなに兄上がいいんだ? あのとき扉を開けたのが兄上だったからか?」
(王太子が開けたんだ?)
「知らなかったのか。じゃあ兄上の顔が好みだからか?」
(まぁ王太子の顔はめちゃくちゃ好きだけども。あの時は逆光でよく見えてなかったから、あとから顔を見てどストライクでびっくりしたなぁ)
「なら、兄上を選んだ理由はなんだ?」
(えぇ? 私にもなんでかなんてわかんないよぅ。あ、扉が開いた時にビビビッてきた。「この人だ! この人と一緒にいれば叶えてもらえる!」って。そしたら勝手に体がヒュンッて飛んで、私は王太子の耳に貼り付いてたんだ)
「……」
(たぶん【唯一無二】の【主】って、お互い約束してなるんじゃなくて、勝手に決まっちゃうんだよ。でも、大丈夫! 私は『魔法の杖』だから!)
「なにが大丈夫なんだ?」
(あのね、魔法はみんなを幸せにするためにあるんだよ! 私は魔法をいっぱい使いたい! そんな私の望みを叶えてくれる人は王太子!)
「……だから?」
(私は魔法で王太子を幸せにする。王太子は私を大切にする。それだけだよ。でも王太子は魔力がありあまってるでしょ? だから、私はみんなも幸せにできるよ)
私は胸を張り力強くうなづく。杖の見た目は変わらないんだけども。
(あまりで!)
「ふはっ、余りでか」
(いっぱいあるんだから、全然大丈夫! 弟王子が【唯一無二】に会いたいなら絶対に出会えるよ。みんなで幸せになろ♪)
「はは……はぁ。まぁ、いいか。スッキリした」
(私は王太子の【唯一無二】だから、弟王子は私の弟同然だしね)
「それは違うぞ! お前が妹だろ!」
(えぇ〜? 弟王子は十四歳でしょ。私はもっと年上だもん!)
「こんな姉がいてたまるか! 生まれたてのくせに。お前の声はずっと聞こえていたのだから知ってるんだぞ!」
(聞こえてた? は。そう言えば、なんで私と普通に会話できてるの?)
「今さらそれか」
聞けば弟王子は【主】にならなくても、すべての【唯一無二】の声を聞き取ることができるんだって。知らなかったよ。
(【唯一無二】にそんなにたくさん会えていいなぁ。私なんて他の【唯一無二】に会ったこともないんだよ。いいな、いいなー)
「あぁ、それは兄上が」
「私の寝室でなにを楽しそうに話しているのかな」
いつの間にか寝室の扉に王太子がいて、ヒュッと私と弟王子は息を飲んだ。
私にのどはないのだけども、それくらいビックリした。
「あ、兄上、はやかっ」
(王太子だーー!!)
シュルっと私の姿が自動的に疑似ピアスになって、王太子の耳に貼り付く。
(もうもうもう! なにしてたの? 【剣】はどうだったの?)
「おや? ユイの機嫌は直ったのかな?」
(直ってない! 今はくっつきたい気分なだけ!)
はふぅ落ち着くぅ。
ふわふわベッドもいいけど断然こっちだよ。
ペタリと貼り付いた私を、そっと王太子が指先でなでる。はぅん。気持ちいぃ。もっとなでてなでて。
「兄上は、【唯一無二】と名前で呼び合わないのですか? そうすれば話ができるようになると聞いていますが」
「うーん。頼んではみたんだけどね」
(無理むりムリ! 名前呼びとか恥ずかしくてできないぃ)
「あー」
「ね」
「って、兄上、もしかして」
「うん、この話は一旦ここまでね」
(ウィンクしながら人差し指でナイショなんて、どこのファンサ! 私、撃☆沈!)
「っ……兄上の平常心には感服いたします」
「そうかい? 慣れたら楽しいものだろう、お互い、ね?」
王太子の流し目に弟王子はたじたじだ。
えぇ、なにこれ、なんなの?
やっぱり禁断の兄弟愛?
「その、兄上。私の話を、聞いていただけますか?」
「もちろんだよ。私も一度ちゃんと話さなければと思っていたからね」
二人のやり取りをしっかりじっくり見ていたいのに、なんだか、まぶたが重く……まぁ私にまぶたはないのだけども。ぐぅ。
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