その3 私はどうして【魔法の杖】なんだろう
魔物の群れはまだちゃんと、王太子と私がさっき放った魔法で足止めされていた。
兵たちが、動けない個体にとどめをさし、魔法のかかりが弱くて動く個体も逃がさず対処していっている。
生きている個体がいなくなったら合図を打ち上げて、回収班を呼ぶ手筈だ。
つまり今なら、ほぼほぼ安全に魔物と戦えるってこと。
「行くよ、ユイ」
(おっけー)
上空から見て、少し離れた場所で足止めされている一体の魔物の近くに私たちは降り立った。
王太子はおもむろに、棍棒みたいな姿になっている【
うぅ。痛くはないんだけど、インパクトの瞬間はまだ慣れないや。
この魔物は回収したあとに美味しくいただくので、王太子も、無闇やたらとボコボコするんじゃなく、できる限り傷めないように、最小限の攻撃で倒してくれるのが、まだ救いかな。
(あ、今の刈りきれてなかったから、追加で【電撃】かけとこ)
「ユイ、ありがと」
(はぅん。やんちゃな笑顔もキュンキュンきちゃうぅ)
王太子はこんな風に変化させた【
なんでかって言ったら、王太子の魔力が高すぎるからで。
意味わかんないよね。私もわかんなかった。
私からしたら、魔力が高ければどんな【魔法の杖】でも使えそうなイメージだったんだけど。
この魔法世界の武器や防具には、耐久度や性能とは別に、それぞれに魔力の器というか、魔力が通る道の太さみたいなのがある。
ざっくり説明すると、一般的に魔法を使うときには杖に自分の魔力を通す。
そのとき、自分の魔力が杖よりも高いと、杖が魔力を扱いきれずに魔法が不発になったり正しい魔法効果が現れなかったりする。
それも危険なんだけど、あまりにも魔力差がありすぎると、杖が壊れてしまうのだ。
これは杖に限らず剣も同じで、魔力がべらぼうに高い王太子は、幼少時にかなり良い剣を壊して以来、剣を握ることを禁じられたらしい。
体を動かすのが好きだった王太子は、棍棒みたいな杖を代替えにして鍛錬を続けていたところ、なんと杖までも壊れるようになってしまった。
握ってるだけで壊れるとか、王太子の魔力どんだけ太いの。
杖が壊れてからは、王太子は今まで以上に魔力制御にも気をつけるようになったけれど、ついに名のある良い杖でも握っただけで壊れるようになってしまった。
そうして剣も杖も扱えなくなった王太子は、魔力が高いだけの役立たず扱いされるようになっていったんだって。
あー、思い出しただけでもムカムカしちゃう。
激おこ案件だよね!
え、なんでそんなに詳しく知ってんのかって?
寝物語に王太子から直接聞いたから。
『【耳飾り】のままで眠れるの? 枕元に寝床を用意したから、杖の姿に戻って専用の寝床で寝てもいいんだよ』
キレイな箱にふかふかの布を敷き詰めて作ってくれた杖用ベッドは寝心地良さそうだったけど、私は王太子にくっついていたかったから疑似ピアスのまま離れなかった。
『一緒にいてくれるんだね。ふふ、嬉しい。誰かと一緒にベッドで眠るのは初めてだよ。せっかくだから、眠たくなるまで話をしよう』
そうして毎晩、王太子がベッドに入って眠たくなるまでの短い時間に、少しずつ王太子の生い立ちを聞かせてもらってたんだ。
私も王太子とお話できたらいいんだけど。私は声が出せないから、お話できないんだよねぇ。
王太子が寝入る直前になると舌足らずな話し方になって、それを聞いてたら、私も誘われるように眠くなって、なんかふわぁっと寝ちゃえるのが幸せで。
って、話がそれちゃった。
えっと、それで、兄上大好き弟王子が自ら足を運んで王太子に見合う武器を探し続けた結果、たまたま【唯一無
今じゃ評価の高い王太子に返り咲いて、魔法も近接戦闘もバンバンこなせるようになりましたとさ、メデタシめでたし、パチパチパチ。
ただ、こうやって近接武器扱いされると、ちょっと考えちゃうよね。
私、【魔法の杖】じゃなくて【剣】だったら良かったのかなって。
【剣】ならこんな風に変化しなくても普通に戦えるから、王太子ももっと嬉しかったんじゃないかなって。
でも、私は前世のことほとんど忘れてるのに、魔法のことだけはクッキリ覚えてたくらい、すっごく魔法が大好きで。大好きだからこそ、この世界の魔法をいくらでも覚えられるんだよね。
もし今の私が【剣】になれたとしても、魔法に対するのと同じ情熱で剣技までもは覚えられない。
王太子の役に立ちたいとは思ってるんだけど。魔法と剣の間には越えられない壁があるというか。【変化】を使っても剣にはなれなかったし。
どうしたって私は【魔法の杖】で、大好きな魔法を使うときが一番しあわせなんだ。
なぁんてことを考えていたからかな。
「兄上! 【唯一無二の剣】が見つかりました! 手に取ってご覧になりますか?」
魔物の群れを掃討し、城に帰還してすぐ、弟王子からその報告を聞いた王太子が。
すっごく嬉しそうで。
私は思わず、ピアスとして貼り付いていた王太子の耳から落ちていた。
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