その2 魔法は共同作業です
遠くから、かすかにしていた地鳴りみたいな音がだんだん大きくなってきた。
今、王太子たちが立っているのは小さな街を囲う高い外壁の上だ。まだ砂ぼこりしか見えないけれど、魔物の群れが近づいてきているのがわかる。
今回の魔物は前世でいうバッファローみたいなのだと聞いている。大きい牛ほどの巨体でツノを持つ四本脚の魔物だとか。
まれに徒競走みたいに走り出す習性があって、それぞれがバラバラに駆け回るなら良いんだけど、たまに群れになるまでマラソン仲間が増えることがあるんだそう。
確かにみんなで走るの楽しいもんね。
ただなぜか、群れになると止まらなくなるらしい。
これはアレかな。
「俺が一番だ!」
「いや、オレのが速い!」
みたいな?
それとも、
「横にいるコイツより先にリタイアしたくない!」
「絶対、最後まで走り抜けてみせる!」
的な?
理由はわからないけど、群れで爆走されると、小さな村や街なんかは踏み壊される災害レベルになっちゃうんだって。
そこで王太子たちが対応に呼ばれたのだ。
確かに足音だけでもすでに騒音レベルになってきた。
「ユイ、準備して」
(らじゃー)
私は、【
【
(相変わらず王太子の大きい!)
「ぐふっ。ごほごほ」
弟王子は花粉症なの?
ここに来てからやたら咳き込んでるけど大丈夫かなぁ。
まぁ今は集中しゅうちゅう!
私自身の魔力が髪の毛の太さだとすると、王太子の魔力は、運動会の
圧縮してこれなんだから、素だったら、前世テレビで見たような神社に飾られている極太しめ縄くらいありそうだ。
私は自分の魔力と王太子の魔力をより合わせて、さらに魔力を凝縮させていく。
ひとつになって抑えきれなくなってきた魔力があふれて、【
「ユーイ、まだだよ。もう少し我慢して」
(うひぃ。息がかかる距離で、そんなかすれ声で囁かれたら、幸せぇ)
ギュンと上がったテンションで、さっきよりギュウッと魔力を縛りつけると、輝きが小さく強くなった。
王太子は「いい子」と私を優しく撫でると、【
「――さん、にぃ、いち、撃てぇっ!!」
私は限界まで縛りつけていた魔力をカウントダウンギリギリまで全力でおさえこみ、「てぇっ」でパッと解放した。
王太子の意識で思い切り押し出された輝きの塊が前方に向かって勢い良く飛んで行く。
すっかり姿が見えるほど近づいた魔物の群れの上で、輝きはバッと弾けた。
一瞬後、耳が痛いくらい
「効果確認!」
魔法で魔物の群れを遠視していた弟王子からの報告を受けて、王太子は指示を飛ばす。
「一班から五班はとどめを! 六班から八班は掃討に向かえ! 収納班は合図あるまで引き続き待機!」
「はっ!!」
一糸乱れぬ返事を残し、外壁の下で今か今かと控えていた兵たちは、雄叫びを上げながら魔物の群れへと駆け出した。
私はと言えば、王太子の手の中で動けないでいた。まぁもともと動けないんだけども。
(はふぅ)
全力で魔法をブッ放すと、杖の先から持ち手のテッペンまで、余韻でしびれちゃうんだよねぇ。
なんだろう。このやったった感。
やりきった充足感でめちゃくちゃ気持ちがいいんだけど。しびびびび。
「ユイ、ユーイ?」
あ、正気に戻らねば。
「ユイ、そろそろ大丈夫? 次もいける?」
(はぅう! そんな仔犬みたいな顔されたら、イエスしか答えられないからぁ。てか全然、余裕だし!)
「いけそうなら、アレに変化して欲しいんだけど」
えー。アレかぁ。
あー、だからいつもは青年実業家みたいな余裕っぷりなのに、今は十八歳の年相応にはしゃいだ感じなのかぁ。
アレ、私的には微妙なんだけどなぁ。
私のためらいが伝わったのか、王太子はとどめを刺しにきた。
「ダメ、かな?」
(ひょっ。首かしげてウルウルは反則ぅ)
私は覚えたての魔法を自身にかけた。
本来の私【魔法の杖】の姿は、持ちやすい指揮棒みたいにスリムな形状だ。
それがなんということでしょう。
【変化】の魔法で大きくなった今は、いわゆる殴り神官が持ってそうな棍棒を彷彿とさせる
もちろん王太子を煩わせないように、持ちやすいフォルム、かつ適度な重さになるように魔法を重ねがけすることは忘れません。
「ありがとう、ユイ」
(はぅ。頬を上気させた無邪気な笑顔、スペシャルレア! 尊い!)
内心複雑だけど頑張るよ!
壊れたくないし、王太子に怪我もさせたくないので、自分にも王太子にも【身体強化】と【硬化】を重ねがけて、と。
「じゃあ、いつもの通り、あとはよろしくね」
「あ、兄上っ!? また勝手に。あにうえぇっ!!」
私を手にした王太子は、足止めした魔物の群れに向かって、【飛翔】で文字通り飛び出した。
王太子は早く行きたくてたまらない目をしている。仕方ない。【速度UP】を重ねがけると、ふふっと微笑んでくれた。
私だって、やるなら全力でやるからね!
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