第十八話『諸悪の根源/新蒼奇譚』
「うおっ!?」
ミレイユたちと行動中、いきなりゲートに飲まれたアレンはどこかへと転移させられる。
少しふらつきながらも床に着地すると、辺りを見回した。
「……教会か?」
アレンはどうやら、とある礼拝堂に転移させられたようだった。
長椅子が何列にも並び、一番奥には祭壇が備え付けられている。
「どうもこんにちは、スレイヤーの方。あなただけは特別に、ここへお呼びすることにしました」
アレンがサッと振り返ると、そこには杖をつき紳士服に身を包んだ壮年の男が立っていた。
頭にはシルクハットを被っている。
「転移魔法を使ったのはアンタか?」
「えぇ、そうです」
「つまりは……魔物頻出問題の元凶ってわけか」
アレンの言葉に微笑しつつ、男は帽子を脱いだ。
「仰る通り。私はベスタ・グレイムルと言います。『攻炉』という組織を統括させていただいている者です」
「攻炉?」
「私の目的のために集まってくれた同志たち、とでも言うべきでしょうか。この街にも今は二人来ています。あなた方のお相手をするために」
男……ベスタの言葉に対し、アレンの顔には緊張が走る。
ベスタの言葉が本当なら、今頃ヴィオラたちはそれぞれ会敵しているだろう。
いくらヴィオラたちが強くなっているとはいえ、実戦経験はまだまだ乏しい。
そんな中で、得体のしれない相手と戦わせるのは危険だと判断する。
この男を倒し、出来るだけ早くヴィオラたちを救出に向かわねばならない、と考えたアレンは殺気を放ち始める。
が、それに驚くことなくベスタは微笑を崩さなかった。
「で、俺がここに呼ばれたのはどういうわけなんだ?」
「話が早い。私があなたを呼んだのはですね……」
ベスタのすぐ近くにゲートが現れ、そこから五体の人型の魔物が現れる。
それぞれ球体関節人形のような分割線が入った手足をしており、頭は目も鼻も口も、耳すらついていないまっさらなモノだった。
歪な音を立てながら魔物たちは、アレンに向かって攻撃の姿勢を取る。
そして、ベスタはさらにゲートから一本の剣を取り出し、自身も構えた。
「あなただけ特別お強いと見える。そこで、私が直にお相手しようと思ったのですよ」
「実力を認めてもらえるのは嬉しいけど、多対一でかかってこられるのはちょっと嫌だな……!」
「では、始めましょうか」
ベスタが手を振ると同時に、魔物たちは四方八方からアレンへと襲い掛かった。
それに対し、アレンは自身の魔法を発動させる。
「
発動と同時にアレンの体から膨れ上がった青色のオーラが、五体の魔物たちを全て弾き飛ばす。
それを見たベスタは驚く。
「魔力を弾く力に変え……いや違う。あなた、魔法の発動によって魔力の量自体が増えましたね?」
「察しが良いな。だけど、能力説明はしないよ」
両手に青いオーラを全て集めると、アレンは魔物たちに向けて走り出した。
アレンが一発一発打撃を当てるごとに、魔物たちの体はどこかしらが欠けていく。
アレンの攻撃の前では、ベスタが用意した魔物たちの強度はクッキー同然だった。
「まずは一体!」
アレンは重い一撃を魔物の頭に直撃させ、頭部を破壊する。
破壊された魔物は、力なくその場に崩れ落ちた。
間髪を入れずに次の魔物に狙いを定めるアレンに対し、ベスタは素早く近づき剣を振るう。
オーラによって作った障壁でガードをするアレン。
「ふふ、その魔法はかなり厄介なようですね、ここにあなたを転移させたかいがありました」
障壁により攻撃を防がれたのを見るや否や、ベスタは下がって距離を取る。
それと交代するように、四体の魔物がまたアレンへと襲い掛かった。
「しかし、そう矢継ぎ早に魔力を使っていては、すぐに魔力切れを起こすでしょう! いくらなんでも、私たちはその隙を逃さないですよ」
「それは……どうかなっ!」
アレンは魔物の胴に回し蹴りを入れる。
蹴りが炸裂した瞬間、再びアレンの周りに青いオーラが爆発した。
つまり、魔力量が再び増えたのだ。
「何……!」
「新蒼奇譚の能力はただ単に魔力を増やすだけじゃない、ってことさ。ちなみに、こういうことも出来る」
アレンは両手にオーラを集め、二本の剣を出現させた。
双剣によって、アレンは残り四体の魔物を次々と斬り裂いていく。
ベスタの顔に、初めて焦りが見えた。
「どうやら、私が思っていたよりもあなたはお強いようだ」
「そうかい?」
全ての魔物を倒したアレンは、ベスタと真っ向から対峙する。
アレンは程よい所で退いてヴィオラたちを助けに行きたかったが、それをするとベスタがどんな行動に出るかわからない。
ここで決着をつけておいた方がいいだろう、と剣を構え直す。
アレンは駆け出し、ベスタと激突した。
― ― ― ― ―
新蒼奇譚は、四つの能力を有している。
一つ目は、魔力を青いオーラに変える能力。
これ自体には特に攻撃効果があるわけではなく、ただ他の能力を使うために下地作りとしてあるだけである。
二つ目は『
これは青いオーラを自在に変化させ、様々な武器や道具を作る能力である。
アレンはよく好んで剣に変えているが、盾や槍に変えることも可能であり、空飛ぶ円盤に変えてその上へ飛び乗ったり、オーラの波動として相手に撃ちだすことも可能である。
四つの能力の中で、一番汎用性が高い能力と言ってもいい。
三つ目は『
これは新蒼奇譚の能力発動時、魔力の絶対量を単純計算で二倍に増やすというものだった。
魔法発動時、ベスタがアレンを見て「魔力が増えた」と言ったのは、この原稿料の能力によるものである。
そして最後、『
これは、オーラを込めて相手を攻撃した時に、十分の一の確率で魔力が全回復する、というものである。
この印税が新蒼奇譚の最も肝となる能力で、どれだけの高頻度で印税を発動できるかに、アレンの実力はかかっている。
ただし、一回発動するごとに印税発動の確率は少しずつ下がっていく。
この四つの能力を極め、アレンはスレイヤーとなり、現在まで様々な任務をこなしてきた。
アレン本人は『中の上くらいの実力』と謙遜してはいるものの、スレイヤー機関の中でアレンの実力を高く評価する者は少なくない。
― ― ― ― ―
「ぐはっ!?」
アレンの勢いのある剣戟に弾かれ、ベスタは吹き飛ばされる。
が、吹き飛ばされた先にゲートを出現させ、そこに転がるように入り込んだ。
アレンが反応するよりも素早く、ベスタはアレンの近くにゲートを再び開いてそこから飛び出し、強烈な蹴りを入れる。
今度はアレンがダメージを受ける番だった。
しかし、アレンはすぐさま態勢を立て直すと、もう一度ベスタを攻撃しようとする。
が、そこで見たものは、ゲートを多数開いて瞬間移動をしつつ攻撃の隙を狙うベスタの姿だった。
そのスピードは、アレンが知覚出来ないほどのものだった。
やがて、また背後を取られるとアレンは剣で斬りつけられる。
「がっ……」
数歩よろめくが、反撃に転じるために無理矢理向き直る。
だが既にベスタはその場におらず、少し離れたところまで移動していた。
「単純な話です。攻撃をすることで魔力が回復するのなら、あなたに一切の攻撃をさせなければいい」
「頭が良いんだか悪いんだか。でも、俺にはかなり効く作戦みたいだね……」
魔力を大量に消費しつつ、アレンは回復魔法を使う。
回復魔法は他の汎用魔法に比べ、魔力消費量が莫大であるため、扱いが難しい魔法の一つだった。
その間に、ベスタは次の一撃を加えようと再び瞬間移動を始める。
しかし、瞬間移動をしているベスタを必死に目で追うでもなく、アレンは自然体になって目を閉じた。
すると、青いオーラがぐるりとアレンの周囲一帯を取り囲み、巨大な球形の水槽のようになる。
ベスタは移動しながら嘲笑した。
「ほう、どこから攻撃されるのかわからないのなら、全ての面を防御してしまえばいいということですか。しかし!」
アレンの頭上に移動したベスタは、直上から剣を振りかざす。
「この魔剣を半端な防御で防げると……!?」
しかし、自信に満ち溢れていたベスタの声には、途中から驚愕と焦りが見え始める。
オーラの水槽に斬りかかったベスタの魔剣は、水槽に沈み込むように深く絡めとられてしまったからだった。
「俺がただの防御で突っ立ってるわけはないよ」
オーラの水槽にどっぷりと浸かった魔剣を、アレンはベスタから一気に奪い取る。
そして魔剣にオーラを込めると、ベスタに向けて振り下ろした。
「がっ、は!!」
ベスタは魔剣が体に当たる瞬間、何とか体に魔力を込めてガードするが、そのまま衝撃により教会の床をゴロゴロと転がっていった。
何とか立ち上がるものの、服の上からもわかるようにベスタの腹には薄っすらと血がにじんでいた。
「はは……まさか、ここまでの実力者が来ていたとは」
ベスタは新しい武器……長槍をゲートから取り出すが、その瞬間、アレンの周囲にもう一度オーラが膨れ上がる。
「な……!?」
「悪いね、今の攻撃で印税が付与された。魔力全回復だ」
回復した魔力で、アレンは体の傷を治していく。
それを見たベスタには、現時点で勝てるビジョンが見えなかったようで、ついに逃走用のゲートを開き始めた。
アレンはそれを見て、違和感に気付く。
ベスタが開こうとしているゲートの速度は、今までのものよりも遅かった。
それを見て、アレンは一つの推測を立てる。
「移動距離によってゲートを開ける速度が変わるのか?」
「お見通しですか。ですがもう遅い、私は一旦退散させてもらいます。アナタを倒せないのは残念ですが……」
しかし、アレンはゲートに入ろうとするベスタに瞬間的に詰め寄ってその腕を掴むと、二本指をビッと指した。
「逃がさないよ、
ベスタの顔が恐怖に歪むと同時に、アレンの絶希終撃は発動した。
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