人類バッファ・ロー化計画
柴山 涙
人類バッファ・ロー化計画
少年には三分以内にやらなければならないことがあった。
それは一つの傲慢な発想から始まったことだ。
当時、世間を賑わす1人の研究家がいた。
彼は幼少期から奇抜な発想を持ち、それによって様々な分野で新しい発見をするので、いつのまにか彼が新しい発明をする事が人々にとって当たり前になってしまっていた。
それが彼の思考を狂わせた。
彼は次第に考えるようになる。
(人は何故、何をするのにも物事を覚えるところから始めなければならないのだろうか?)
そして期待に応えることへの重圧は自身をより深く追い詰める。
(人生は何故、こんなにも短いのだろうか?これでは物事を研究するにはあまりにも時間が足りなすぎる)
ふと、彼は思いついた。
(そうだ。人々が皆、記憶を共有すれば研究は受け継がれて、こんな悩み事をしなくても済むじゃないか)
そうして彼は人工知能を用いて、人の脳を補完し記憶を共有する人工の脳を開発した。
それは他人と記憶を共有できるというところからバッファメモリの「バッファ」と、記憶とは視界に映るものから取り入れた未加工の映像であると例えられたところからRAW画像の「RAW」をとって、人工義脳「バッファ・ロー」と名付けられた。
学者は新たな発明を公表するや否や、人々に「バッファ・ロー」の装着を促した。
学者を信じきった民衆は皆、記憶の共有に全知全能や世界平和を夢見て、彼の言うままに従って動いた。
しかし、たった一人それに従わない少年がいた。
少年は、皆に「人は複数の群れをなすからこそ思想が分かれ、数多もの答えを導き出し文明をなすのだ」と解いた。
だが、それが彼らの胸に届くことはなかった。
次々と配られた人工義脳を取り付けていく人々の中には、とうとう最後まで自分を信じてくれていたはずの最愛の母の姿すらあった。
少年の制止も虚しく、人々は記憶の共有を始める。
すると、突然彼らの口や鼻からは大量の血が吐き出された。
オーバーヒートだ。
共有され流れ込んでくる莫大な情報に、脳が耐えきれなかったのである。
人類を救う為には、少年に人工義脳の停止をする事が求められた。
制限時間はわからない。
共有は全員が同時に行われているかもしれないし、徐々に蔓延していくものであったとしても、もう手遅れかもしれない。
ならば大切な人だけでも。と少年は目の前に倒れた母親の頭から即座に義脳を取り外した。
母親は目覚めない。
人の脳に酸素が配給されなくなってから死に至るまでの時間は約三分と言われている。
そんな短期間で脳が焼かれた際の対処法など調べられるはずがなかった。
少年の頭には一つの考えが浮かんでいた。
一瞬だけなら大丈夫だと言い聞かせ、焦る気持ちを落ち着かせながら少年は母親から取り外したそれに手を掛ける。
そうして人類が積み上げてきたものは全て、欲望のままに突き進むバッファローの群れによって破壊された。
その思念体は今も人工知能の作り出す架空の世界でそれまで通りの文明を作り、それぞれが意志を持って生活を続けているそうだ。
もし人工知能の電源が切れてしまったとしたら、その世界は一体どうなってしまうのだろうか。
そして、もし元の世界にまだ生き残った人間がいたとしたら……
僕だったら、きっとそのままにはしておかないだろうね。
人類バッファ・ロー化計画 柴山 涙 @shshigadelicious
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