苦悶

馬場 芥

スランプ


 画素の粗さが目元を歪ませる。目が疲れを覚えていることを知った彼は、ひとしきりキーボードに顔を伏せた後、また画面に食らいついた。


 彼は小説を執筆していた。モニターにはシラミほどの粒が黒々と埋め尽くされていた。文字を潰しては入力する。その過程を幾万いくまんかつづけた後には彼の瞳に色は失われていた。


 彼には意欲があった。鮮明に輝く一筋の夢。儚くもまばゆ枇榔度びろうどの如き深緑色の夢が。だが、ほかの輝きに目を奪われていく内に、彼にはあの頃の輝きが分からなくなっていた。


 小説の輝き。文字が粒立ち踊り狂う。脳内に巡る表現の美しさはまるで作者から離れ、意志を持って動いているかのようであった。だが、シラミで埋め尽くされたモニターの中をいくら探しても見つかりはしなかった。


 いつから私の気持ちは失われていったのだろうか。翌朝を迎えたとて、あの頃の自分が目覚めることはない。いまだに燻り続ける炎は体の内に秘められ、解き放たれることなくおもむろに、衰退の一途を辿るのだ。


 彼は彼がわからぬままに、また筆を執った。

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苦悶 馬場 芥 @akuta2211

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