第10話 デート
「それでデートというのは、どうすればいいんだ?」
放課後デートの時間は、「やっぱり」とユノに笑われ、「ルシウス様・・・・・」と従者に残念なものを見るような目を向けられ、散々な思いをする事から始まった。
そして話し合いの末、ユノの知り合いがオススメする
「そんな事がおありだったのですね。」
ユノから昼休みの一件を耳にしたアイリスは興味深そうに何度か相槌を打っている。
「うん、まぁな。」
俺は街中をきょろきょろと見回しながら、心ここに在らずと言った様子で頷いた。
すっかり街に飲み込まれていたのだ。
それ程までに、窓の外から見る王都と内へと入った時に感じる景色というのは異なる。
耳を
夕焼けに照らされて赤くなる街並みを、かつては額縁に飾られた絵画のように感じていたのに、今となっては、まるでそう感じない。
良くも悪くも、ここは生の世界だった。
「殿下はタカマキさんが勝利する事が可能だとお思いですか?」
「無理だろうな。最低ランクの『神器使い』にすら勝つのは怪しい。」
即答であった。
意識を会話へと戻し、アイリスの方を見ると、彼女は少しだけ安堵したような表情をしていた。
まぁ、彼女からしても、付き合いの長さは、勇者達よりも、それ以外の生徒たちの方が長い。
それに王太子である俺に、すぐに追い抜かれるような安い努力だと思って欲しくないんだろうな。
「どうしてだい?私は可能性はあると思うけど。」
反対にユノは勇者たちの方を応援しているらしい。
これも意外とは言えない。俺に対して入れ込んでくれる彼女だが、今までの付き合いが全て消えた訳じゃない。
余程、嫌いな人物相手でもない限り、自然と立ち位置は勇者達に近くなる。
「君は可能だろうな。他の者では無理だ。」
しかし、少々甘い見通しと言わざるを得ない。
「理由を聞いても?」
「単純に熱量に差がある。慣れない土地で良くやってくれているとは思うが、やはり殆どの勇者は生温い。」
全く非合理な物言いになるが、彼等には退路がある。その余裕が、身を削るような執念を奪ってしまっている。
「対して、メーティス学園の『神器使い』は大体が死に物狂いだ。彼等は本気で自分の未来を掴みに来ている。」
メーティス学園の『神器使い』の約半数が王都以外の出身の貴族だ。それも継承権のない。
彼等は、高いマナ総量を備えながらも、自領の『神器』への適合が適わず、苦渋を舐めさせられた。
それでも、『神器使い』になる夢を諦め切れずに、王都に上り、適性試験を受けた者達だ。
文字通り、人生を賭けてこの学園に来ている。
その意識の差が、何気ない時間の使い方、食事、睡眠時間、訓練への取り組み方に現れ、結果にも現れる。
尤も、それでもユノのような鬼才には太刀打ち出来ないのだから、才能というのは恐ろしいものだが。
「ふぅん。あっ、こっちから行った方が近いらしいよ。」
つまらなそうな生返事をしたユノの指示に従い、表通りから路地へと。
そこから更に進み、ふと足を止めた。
「地図によるとこっちみたいなんだけど、どうする?」
手書き感のある地図を片手に尋ねるユノの先に有るのは、建物と建物の隙間に生じた道。
即ち、路地裏だった。
少し暗がりになった道は、不思議な陰気を纏っていて、誘う者と拒む者を選り分けているようだ。
「ユノ様、流石にそれは・・・・・」
危険性を重く見たアイリスの諌言を俺は手で制する。
どうやら俺は誘惑される質の人間であったようだ。
「ルシウス様、危険です!他の道を通りましょう!」
「何も
大袈裟に引き止めるアイリスに、二度は言わせるな、と視線を送る。
「それってフラグ・・・・・」と何やらユノが訳の分からない事を言っているが、俺は浮かれた様子で路地裏へと足を踏み入れたのであった。
◇
「おい、てめぇ、ルシウス・ジュピターだな?」
路地裏を抜ける手前、俺達の前に10人ほどの男達が立ち塞がった。
すぐに後ろからも、ぞろぞろと湧き出てきて、退路を塞ぐ。
乱暴な言葉や無礼な振る舞いの割に、何れも、それなりに清潔感のある服装をしており、無頼漢のようには見えない。
とはいえ、俺を目的にして、ここにいるのは確かだしな。
「・・・・・可笑しいな。マナの感知はしっかりしていたはずだが。」
「待ち伏せしてたんだよ!間抜け!」
尾行してくる人間などいなかった、と顎に手を当てて思案げにすると、身なりのそれなりに整ったエルフが口汚く罵ってくる。
「ごめん。何処かで盗み見られちゃってたみたい。」
思い当たる節を辿り、視線が自然とユノの方へと行くと、彼女は申し訳なさそうに柳眉を寄せ、肩を落として謝罪する。
まるで自分自身を追い込むような姿に、追い討ちする気を無くした俺は、慰めの言葉を吐く。
「気にするな。ここを通ろうと行ったのは俺だ。」
「私もルシウス様をお諌めする事が適いませんでした。責任は私にもございます。ですので、お気に病まないでください。」
それにアイリスも続いた。
「おい・・・・・!なに茶番やってんだ!」
だが、無視するかのような対応が、神経を逆撫でしたらしい。
無頼漢の1人が激高の怒号を発した。
すると、六つの眼が剣呑に細まり、極寒の冷気を帯びる。
この程度の脅迫で、『神器使い』が恐怖を感じると考えているなら、
「失礼した。いかにも俺が、この国の王太子、ルシウス・ジュピターだが、何か用かな?」
底冷えする声で挑むように尋ねる。
この国の王太子と知りながらこの無礼な態度、待ち伏せするまでの執拗さ。
用件は言わずと知れていた。
「なに、ちょっとばかし痛い目見てもらうだけさ。あんただけじゃなくて、そこの女共にもな!」
だと思っていた。
言葉の威勢そのままに、男が襲い掛かる直前、俺の足は地面をカツンと叩いた。
「『
瞬間、白い稲妻が蛇のように地面を駆け抜け、無頼漢達へと襲いかかる。
「「「うああああぁぁぁぁぁ!?」」」
建物に囲まれた空間に、阿鼻叫喚の大合唱が響き渡る。
大の大人が堪えることも出来ずに、その場に崩れ落ち、言葉にならない悲鳴を上げて、もがき苦しんでいる。
「今のが、ルシウスの『神器』の力?」
突如として倒れ伏した無頼漢達をぐるりと見渡し、戦慄するユノ。
そういえば、彼女の前で『神器』を使ったのは、初めてだったな。
「その一つだ。尤も、こんなしょっぱい使い方になってしまったのが、遺憾ではあるがな。」
しかし、これ以上やれば死んでしまうだろう。
人間の身体は、100mAの電流にすら1秒も耐えられない。
『神器』の力を介した雷なら、尚のことだ。
「拗ねてる?」「ちょっとだけ」という声を背に、俺は殴りかかろうとしていた男の元へと足を運ぶ。
「話すことくらいは出来るだろ?何が目的だ?」
男は眦を釣り上げ、反骨心を剥き出しにして、俺を睨んだが、俺の足が彼の胸の辺りを軽く踏むと、鼻白むように呼吸を止めた。
「俺に二度同じ事を言わせる気か?」
それとも二度、同じ痛みを味わいたいか?
冷ややかに見下ろし、心臓に押し付けるように靴を胸に押し込んでいく。
「わ、分かった。話す。」
彼は全身から力を抜き、屈服の道を選んだ。
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