第11話 呪いの次は状態異常?

 買い物をして別荘に戻ってきましたよ。

 買い込みすぎて家に帰ってくるまでが大変だったさ。

 目立つから適当な場所で【なんでも収納】を使う訳にもいかなかったし。


「さて、お姉さんはどうしてるかな?」


 さすがに起きていると思うんだよな。

 それだけに寝室に向かうのが怖い。

 できれば向こうから来てくれないかなとか希望的観測を抱きつつリビングで映し出されている外の様子を眺めたりしてしまった。

 ほとんど変化がないから数分としないうちに手持ち無沙汰になるんだけど。


「行くか」


 もたもたしているだけ時間の無駄だと自分に言い聞かせて寝室に向かう。


「入るぞ」


 ドアを設置するのを忘れていたので声をかけてから部屋に入る。

 返事は待たない。

 着替えるような服はないのだから事故も起こらないと踏んでのことだ。

 ご飯を食べているか気になっていたのもある。


 結論から言えば起きていたし食べてもいた。

 ただし部屋に入るなりベッドから飛び起きて床に膝をついたかと思うと土下座されてしまったけれど。

 わー、こっちの世界にも土下座があるんだーと思ったさ。

 ……現実逃避している場合じゃないな。


「いきなり、そんな真似されてもなぁ」


 何がしたいのか意図が読めん。

 おまけに微動だにしないし言い訳のひとつもしてくれない。

 会話も成り立たないんじゃ取り付く島もないのと変わらない。


「おーい、何か喋ってくれ~」


「申し訳ございません!」


 ようやく喋ってくれたと思ったら謝罪してくるし。

 しかも、その内容が謝罪だけでは意味不明で見当もつかない。


「いや、どういうことか説明してもらわんと何について謝られているんだかサッパリなんだけど?」


「申し訳ございません!」


 ダメだ、こりゃ。

 お姉さんが落ち着くまでは何を言っても無駄な気がする。

 いつになるか見当もつかないから、それまで待つなんて選択肢はないけどな。

 かといってお姉さんがどんな行動に出るか読めないから下手に移動もできないんだよ。

 できることと言えば周囲の観察くらいか。


 食べ物は無くなっているので、その点については一安心だ。

 一瞬、勝手に食べたから謝ってるのかと考えたけど、それはないだろう。

 その程度のことで何かに怯えるような謝罪の仕方をするとは思えない。

 寝室から出たようにも思えない。

 何なんだろうね、一体。


 お姉さんを見るが、やはり微動だにしないままだ。

 体力的な問題はなさそうだが状態異常はどうなんだろうな。

 【達人の目】カードで確認してみると……


「うわぁ」


 思わず声が漏れたさ。


[恐慌]]]]]]]]]]


 恐慌状態のアイコンがいくつも重なった状態なんだから。

 全部で10個か。

 要するにパニックが極限状態にあるってことだろ。

 こんなアイコンが出ること自体が予想外もいいところなんですが。

 普通にビビっている程度ならアイコンが出ないように調整しているはずだからね。

 1枚でも出ている時点で尋常じゃないのだ。


 だが、土下座状態でフリーズしたままなのも声をかけたにもかかわらず返事がもらえないのも納得がいった。

 この状態をどうにかしないと、どうにもならないってことも理解したよ。

 だからといって解決手段をホイホイ思いつける訳じゃないから途方に暮れるしかないんだけど。


「どうすんだよ、これ」


 説得しようにも話を聞いてもらえる状態じゃない。

 せめて会話が成立するなら根気よく話しかければどうにかなるかもしれないが今のままではどうしようもない。


 どうしようもないと言えば、こんな状況でも腹は減るということか。

 俺の腹が見境もなくグウグウと鳴いてくれましたよ。


「申し訳ございません!」


 お姉さんにも聞こえてしまったようで大変恥ずかしい。

 言い訳が許されるなら朝も昼も軽めだった上に夕飯は買い物優先でまだだったからね。

 まあ、それよりも恐慌状態が継続しているお姉さんのワンパターンな謝罪の方が俺にはダメージが大きかったけど。


 もはや自棄クソの心境で椅子とサイドテーブルを【なんでも収納】カードを使って引っ張り出した。

 サイドテーブルの上には晩ご飯として用意したテイクアウトのギガ盛り牛丼味噌汁付きがある。

 お姉さんに断りを入れず、さっさと席について牛丼の蓋を開けた。

 食欲をそそる匂いが水蒸気とともにふわっと広がった。

 お陰で憂鬱な気分が緩和されたものの空きっ腹はまたしても鳴いてくれましたよ。


 復活しそうになる羞恥心にフタをしてスーパーで買った卵を割り入れた。

 【なんでも収納】で保存していたので時間は経過していない状態の卵は鮮度がキープされている。


 割り箸を引き裂くように割って速攻で牛丼をかき込んでいった。

 お姉さんの存在を無視してひたすらに食う。

 牛丼の濃い味を生卵がまろやかにしてくれて絶品だ。

 合間に啜る味噌汁も味をリセットしてくれるので最後まで味わい続けることができた。


「ふう……」


 食べ終われば逃避していた現実に引き戻される。

 当然のことだが、食事をするわずかな時間でお姉さんの状態異常が解除されたりはしなかった。

 空腹が満たされたからといって良い解決案を思いつく訳でもない。


「これがゲームなら魔法でパパッとバフって状態異常を解除できるんだろうけどさ」


 思わず漏れ出る呟きは愚痴しかない有様だ。


「ん?」


 いま自分が言った魔法という部分に引っかかりを感じた。

 そうだ、魔法だよ。

 この世界の魔法が俺にも使えるかは知らないが、魔法と遜色ないことが俺にはできるじゃないか。

 こんな時こそイマジナリーカードの出番だろうに何を途方に暮れていたのだろう。

 自分の間抜けさ加減に嫌気がさした。


 いじめのせいで精神面は鍛えられていたからイマジナリーカードに頼ることがなかったのが原因だと思いたい。

 何を言っても言い訳になるんだけどな。


 とにかく新しいイマジナリーカードを創造しよう。

 精神系の状態異常を回復させるカードをイメージする。

 新しいカードの名称は【平常心】だ。


 出来上がったばかりのカードを即座に使う。

 もちろん対象はお姉さんだ。


「どうだ?」


[恐慌]]]]]]]]]


 【達人の目】カードで表示されているアイコンは消えていない。


「ダメか」


 一瞬そう思ったが、よく見ればひとつ減ってアイコンが9個になっている。

 アイコン1個に対してイマジナリーカードも1枚か。

 異なる状態異常に対してならそれもわからなくはないんだけど、頑張ってイメージした割に効果が薄い気がする。

 心情的には1枚の消費で状態異常がすべて解除されてほしかったんだよな。

 蓋を開けてみたら等価交換的な効果しかなかったからガックリだ。

 残り9枚分のカードを複製して使うだけだから疲れたりはしないんだけどね。


 内心で愚痴っていても仕方がないので2枚目の【平常心】を用意してお姉さんにセット。

 そしてカードを使って使ってアイコンの個数を確認する。


[恐慌]]]]]]]]


「やっぱり残り8枚か」


 カードが強化された訳でもないからなぁ。

 効果を高めることを目論むなら複数のカードを一度に使うくらいはしないとダメだろう。

 2枚……いや、3枚でやってみるのはどうか。

 効果が倍増してくれるとも思えないが少しは期待したい。


 そう思って【平常心】3枚を一気に投入。


[恐慌]]]]


 カードを3枚使って4個のアイコンが消えたか。

 一応、目論見通りとは言えそうだけど中途半端な結果だ。

 ちょっとモヤッとするなぁ。

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