エピローグ

 その後のことは意外にすんなりと進んだ。

 てっきりプリメラを渡せと人質交渉してくるものと思っていたけれど、そんなことにはならず、少し時間はあったものの、テロリスト達は一人残らず船から撤退していった。

 船はもう安全なので安心するようにと、これから船内を確認し、救命ボートを順に回収するので落ち着いて待つようにとスピーカーから流れていた。

 夜通し動き回っていたのと、疲れからか皆ボートの上で寝てしまっている。

 僕はまだ気分が高ぶっているのか、寝るに寝られなかった。

 空湖も同じなのかは分からないけれど起きている。

 でも疲労困憊には違いないので、ボートの端を背にもたれ掛かっていた。

「マスター美術品持っていっちゃったけど大丈夫かな?」

 正直ソフィア達のことで頭が一杯でそれどころではなかった。

 善良な市民としては通報くらいするべきなんだろうか?

「大丈夫じゃない? 多分ちゃんと持ち主の所に戻ると思うわよ」

 空湖はマスターに渡された黄色い破片を眺めている。

 四角錐――ピラミッド型を二つ合わせたような、野球ボールくらいの大きさの塊だ。

 空湖はそれを調べるようにいじっていたが、対になるピラミッドを捻るように動かすと、カチャリと外れる。

 そして卵が割れるように二つに分かれた。

 元々が組み上げられたオブジェの一部で、そこから外した物みたいだったから、それ自体は不思議なことではないんだろうけど……。

「中に何か入ってる」

 そうだ。割れた卵の中にピッタリと収まるように何かが入っていた。

 空湖はそれを取り出して眺めるが、僕にはそれが何なのか分からない。

 形は……、コマ? かな。昔お正月に回して遊んだと言われる玩具。

 それが一番近いけれど、それにしては縦に長くて安定が悪そうだ。

 他にたとえるならエンジンプラグを少し太らせた物……だろうか。

 いずれにせよ、それ単体で何かをするというより、何かのパーツであるようには思う。

「なんなの? それ」

「分かんない」

 そりゃそうか。

 空湖は気が済んだようにポケットに仕舞う。

 日本に帰ったらまた学校が始まるわけだけど、大変だったんだからもう少し休めないのかな……、などと思いつつ、僕達は並んで澄み渡る空を眺めた。

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