第3話 魔王と勇者と平和とタイツ

同級生...しかも、仲の悪い両面...かと言って、僕と君とじゃ結局の所やりにくさは変わらない。


「おいおい、額から汗が出てるぞ。 勇者様よ。ああそうか。 お前全然強くなってないまま突っ込んできたな。 やっぱ学歴優秀な奴は効率的な方法を考えてやってくるから貧弱なままなのかなぁ」


ああ、何故だろう...普段なら色んな事を考えては回避をしたり、冷静なはずなのにヤッパこいつに言われると無性に腹が...いや、ダメだ。

ここでキレたら相手の思うツボ。


「おやおや、だんまりですかあー? ぶはははは! なっさけねぇなぁ! あろう事か勇者様がお前みたいなチンチクリンだったなんて。 普段から学力ばっか身に付けてるから、いざという時に勝てなくなっていくんだよ。 わかってんのかぁ?? ゆ、う、しゃ、さ、ま」


「んだと...テメェだけに言われたくねえよ、脳筋クソ野郎が!! 何でテメェみたいな奴に言われなきゃなんねえんだ!? ああ!? ああそうか! お前頭悪いし普段から素行悪いから魔王に選ばれて当然か!! ごめんごめん、気付かなかったよ。 いやぁ〜僕は頭が良くて君が魔王になった理由を考えてみたんだけど辻褄も合うねえ。 だって脳筋だもん。 いや、脳筋というより、バカ」


あ゙あ゙あ゙ん?!とブチギレる彼は高笑いし、僕もそれに乗っかり互いに高笑いを始めた。


『あはっ、あははっ、あっはっはっはっはっはっ!!死ねボゲェ!!』

拳と包丁がぶつかり合い地面が割れた所で、僕の顔を誰かが蹴り飛ばし、地面に倒れ顔を上げると、目の前に居てた魔王の彼が必死に土下座をしているのが目に入った。

「ゆ、勇者くん...あ、あの、お、俺の側近さんなんだけどさ? そ、そのお〜少しうるさかったみたいで」


何を言ってるんだ...でも、土下座をしてる先には誰もいてな。

「てめえか」



静かな怒りが背筋を刺激し、背後から聞こえた女性の声に僕はゆっくりと振り返る。


「側近様!! お辞めください! 彼はまだほんのレベル1で」

何をそんなに慌ててるんだ...アイツは。

いや、それよりも僕は勇者なんだ。

一刻も早くアイツぶん殴って日本に帰る手立てを...あ、あれ? なんか、背後からすっごい冷たい視線が流れてくるんだけど、この女の人からだよね。


「朝起きて、日課のラジオ体操してくるわと言ってたので、朝食作っていたらバンバン音立てて、挙句の果てには風圧まで生み出して...おい!! 魔王と勇者!! 今日に関しては特別な存在かなにか知らねえけどなぁ!! これ見ろ」


僕の襟を掴んだ彼女は、何故か魔王の彼まで襟をつかみかかり。

振りほどこうとするが、全然太刀打ち出来ないまま引きずられた。


「くそっ!!何処に連れてく気だ!! てか、お前魔王なんだから、少しは説得を」

あ、ダメだこいつ……この女に怖気付いて、何処ぞの電気ネズミのやつれた顔で歩いてるシーンみたいな顔になってる。


「ごめん...ごめんね、あの、本当にごめんね」

さっきまでの威勢と威圧感はどこへやら。

いつ目のムカつくやつの顔は消え去り、先程の例えのような顔のままずっと、静かに謝り続けている。


引きずりが終わると、地面に顔面を押さえつけられた両者は、顔を持ち上げられ、目の前の光景を見せつけられた。

「あっ...いや、あの、これは」


僕が崖の上で見た古民家風な家が半分消し飛び、挙句の果てには食料や寝具の残骸であろう物が散乱している光景が目に入った。


「いいんですよぉ。 いくらでも壊して頂いても〜 ですけど〜勇者様? 魔王様? どうして周りを見て戦わないんですか? いくら何でもこれに関しては謝らないんですかねぇ……あ、もう遅いんで謝罪は結構です。弁償してもらうので」


弁償と言った瞬間、まおうである彼の顔が一瞬で青ざめ、先程のヤツレタ顔から、立てなくなったボクサーのような白さへと変貌してしまった。


「 マオウサマ」

「わかってるよぉ!! 行けばいいんだろ!! 行けば!! 勇者!お前も他人の家壊したんだから行くぞ」


「え!? ちょっ、何がなんだよ!! 説明しろよ」

「お夕飯は自分で取ってきて下さいね。死に損な...ゲフンゲフン。魔王様」


今絶対に言っちゃだめだと思う一言言ったぞあの人。

なのに、魔王なはずだよね?こいつ……いつも暴れん坊な性格が、何も言わず静かに従ってる...一体何があったんだ。


「着いた...さて、勇者君よ...君は多分逃げ出すと思うから。 この優しい俺が監視しといてやるよ」

何か、ウオオオお叫んでる木の口が開いたなぁって思ってたら。 中から白い管が僕の手足を縛って顔だけが出た状態で縛られたんだけど。


「なーに監視役で居てるんですか!アンタも弁償に貢献してこい」

先程の女が魔王の背中を蹴り飛ばし、彼が隣の木に吸い込まれると、顔だけではなく、プリティなケツがコンニチハした状態で固定された。


「ちょっ!! 中こんなになってんの!? 待って怖い怖い怖い!! 側近さん!!1回抜いて!!怖い!これ怖い!! イヤアアアアア!!! うおおおおおお!!いっでええええ!!

ちょっ、そこは、いいいいいい」


ずっと叫んでる彼を横目に僕は何が起きたか分からずいると。


チクリと何かが腕と身体に刺さった。

「あれ、なんかチクリって...いっでええええ!!なんだこれ吸われるうぅぅ!! 持っていったらアカンもん吸うとる気がするんだけど!? ヌォオオオオ!!!」


「ウワアアアアア!!!」

『ヌオオオオオ!!!たす、助けてえええ!! いってえええ!! 』


それから、数十分の間、僕たちの絶叫が木霊した後。

マッズ!!という声と共に僕たちの体は吐き出されたが、魔王の彼も、勇者の僕も身体が干からび...まるでムンクの叫びのような顔になってしまった。


「ま、マオオ...あれは、ナンダヨォ」

息がスレスレになりながらも、捻り出されたカッスカスな声で彼に聞くが、彼も、ベンショウダアアと同じカスカスな声で返事された。

でも、あの女に関しては 鼻歌歌いながら帰ってるし。

絶対に挑むやつ間違えたし、なんなら、アイツが魔王でもいいと思えてきたよ。


「ユウシャア...オレ、マオウヤメタイィ」

「ワカルゥ...ア、ダメダァ、コエダスト、チカラガァ」


互いに、ゆらゆらと揺れながら、フォォオと声にならない悲鳴をあげ、歩いて戻ると、先程の古民家が治っていた。

『イ、イエダア』

その日から数日...僕達はムンクから人に戻るまでヒタスラ寝て起きて飯食ってを繰り返した。

そして、一つだけ互いに認めあう事がふえた。


『あの女は絶対に怒らせちゃダメだ』

そうやって、声がハモるくらいにはね。

そして、今日も今日とて軽い口喧嘩になった途端、側近の腹パンを喰らい撃沈する。


なんか、これはこれで、良いと思えるよ。

あ、ちなみになんだが。


「タイツ……最高です」

「貴様もか」

この発言が、彼女の逆鱗に触れ、地面に埋められ、布団叩きで叩き回されたのは別の話。

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