砂時計
歩致
砂時計は英語でhourglassらしい
私には三分以内にやらなければならないことがあった。
あったはずなのだ。それがとても大事なことなのか、それともどうでもいいことなのかそれすらも思い出せない。
しかし三分以内になにかをしなくてはいけないという強迫観念と、タイムリミットが迫ってくる恐怖に頭の中は支配されている。
一旦状況を整理しようと思う。まず、ここは私の家のキッチンだ。昼食の用意をしようと思いここに来ると三分という数字が頭の中で暴れ出した。時計はまた11時57分を指し、秒針が6を過ぎようとしている。12時になるとなにかが起きるのか?それにしては身の回りに異変が無さすぎる。私には妻も子供もいないから誰かのために何かしなければならないということも無いはずだ。
いや、まて”また”?なぜ私は時計の針に見覚えがある?
毎日見ているからと言う理由ではなく今日この日この時に見るあの時計の針に見覚えがある。
時計は11時58分を指した。
一度スマフォを確認するが今日はそもそも予定が入ってない。心配性な私は必ず予定をスマフォに登録しているから予定を忘れているということもない……はずだ。
もうこれ以上考えられることはない。で、あれば大人しく昼食を食べる準備でもしよう。考えていたら少しは落ち着いた。
今日はなんとなく早く済ませたいから買ってあったパンとインスタントのスープでも食べてゆっくり食後のコーヒーでも飲もう。
パンとスープをテーブルに置き、テレビをつける。ちょうど昼のニュースが始まったばかりで12:00ちょうどを表示している。
「速報です!!○〇国がミサイル攻撃を開始しました。落下予想地点は現在画面に表示されている□□、△△、××の三地点です。この地点とそこに近いところへお住みの方は直ちに避難を開始してください!決して諦めず、最後まで逃げてくだs」
ああ、窓の外に光が見える。不思議とこれから死ぬのだという確信がありながらも、穏やかな気持ちのままだ。
神様は理不尽だ。もう少し早くこのことを知っていたら……、もう少し早く逃げていたら。そう考えても仕方のないことだろう。
……そして私は目を閉じた。これから襲い来る理不尽を現実逃避するために。
これは夢なのだと思い込むために。
『私には三分以内にやらなければならないことがあった、はずだ。』
砂時計 歩致 @azidaka-ha
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