第2話

〈都内某所〉

「田中さん、おはようございます。」


男が声をかけると、ほんのり白髪が混じった短髪の中年男性が答えた。


「よう、坂本。今日はやけに眠そうだな。」

「うーん、何かよく眠れてなくて。寝てる間に長い夢みてた気がするんですが…思い出せないんですよ。」

「顔でも洗ってこい。これから会議だぞ。」

「そうします。」


田中はこの坂本という男の上司であった。

坂本は言われたとおりにトイレの洗面台で顔を洗い、それでもまだなんだか冴えない頭を抱えながら会議室へと向かった。


ガチャ、と扉を開けると既に何人か席に着いていた。

部屋の前方には、田中が彼らと向かい合う形で置かれた席に座っている。

坂本はコツコツ、と歩いて田中の隣に座った。

用意されていた資料に目を通し始めると、少し離れた所から何やらコソコソと話し声が聞こえた。


「坂本、田中課長の隣に座ったぞ。やっぱり新1班の班長は坂本か。」

「真壁さん亡くなってから大分経つからな。」

「後任が誰になるかって皆注目してただろ。副班長だった常盤さんが有力だったけど。」

「田中課長は実力主義だ。坂本は若いけど、実力は申し分ない。常盤さんとは…正直比べ物にならないし。」

「そうだけど、常盤さん複雑だろうな。真壁さんが亡くなった時、本人から直接、班を任せたって遺言言われてたみたいだぞ。」

「…!、常盤さんだ。」


コソコソと話す男たちの目線の先に、がたいのいい、坊主頭の男がいた。

彼が常盤である。

常盤は部屋の中に入ると、入ってきたことに気づいた坂本と目が合った。

互いに軽く会釈をし、そのまま坂本の隣に常盤が座った。

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