第5話 血税など使っておりませんわ。私財です②

「いいのか。俺を脅したりしたらどうなっても知らないぞ」


「どうなるんです?」


「俺は屋台でフルーティナ男爵領の果物を売っている商人だが、フルーティナ男爵家当主の弟なんだ。

たかが平民の孤児院の院長が逆らっていい人間じゃないんだよ」


「そうですか」


「男爵家の当主の弟だからって院長先生からしたら何でもないよな」


「そうだよね。院長先生は第2王妃殿下なんだもん。あんな反応になるよね。

それに死んじゃったパパが言っていたんだけどSランク冒険者でもあってめっちゃ強いんだって」


「マジか。騎士にはなれないだろうけど兵士にならなれる。

冒険者もいいかなって思っていたんだ。院長先生に鍛えてもらおうかな」


「鍛えてもらうのはいい案だと思うけど稽古中に死んじゃうんじゃない。

ダニエルが死んじゃうのも院長先生が人殺しで捕まるのも私嫌だよ」


「……」


 ダニエルとミリーが周りに聞こえないようにコソコソそんな事を話してます。

2人は元貴族の子供なので私のもう1つの肩書きを知っている。


 それからミリー。ダニエルを鍛えるちゃんと手加減するからダニエルは死なないよ。


 ダニエルもそんな真っ青な顔して無言で私を見ないで殺したりしないからさ。


「貴族籍残っているですね。騒ぎで誰かが兵士を呼びに行ったりしたかもだけど兵士じゃ荷が重いわね。というわけで出てきて頂戴な」


「はぁ。私が収ればよろしいのですね」


「そう。あの店主がダニエルに渡さないって言ったらこれにコピーしない。

魔導具の使用可能者じゃなくても私が許可した者なら魔導具同士を重ねればコピーできるから」


 魔導具に血を登録した使用可能者なら魔導具同士を重ねなくても遠く離れていても送りたい相手の魔導具に送信する事ができる。


「ということで私が収めさせていただきます」


「いきなり出てきて誰なんだよ」


「申し遅れました。ルイス・フォン・ディフェスター。ディフェスター侯爵家の次男で近衛騎士団所属の騎士です」


「近衛騎士団所属の騎士が何で孤児院の院長何かに従うんだよ」


「まあ……本人も隠してませんし、何でか話してもいいですけどあなたがまずい立場になりますよ。

なので聞かずにその魔導具に保存されている本日分の映像をコピーさせていただきたいですね」


 聞いちゃったら不敬罪で王城の牢にドナドナされ、当主であるお兄さんも呼び出され、多少なりともフルーティナ男爵家の名に傷がついちゃうことになるだろうな。


 私がただの孤児院の院長というだけには気づけたみたいで承諾もらってコピーできたみたいだ。


「これは……この子達は盗んでませんね。盗んだのはその子ですね」


 映像が再生されダニエルたちが盗んでいないのが証明され、真犯人も判明した。


 ずっと黙ったまま店主さんの側に居たから店主さんの息子かな?


「ドロストお前だったのか!!」


「仕方ないじゃないか。小腹が空いちゃったんだからさ。

そしたら父さんが孤児たちが犯人に違いないとか騒ぎ始めて何も言えなくなったんだよ。

身代わりになってもらえば俺が怒られずに済むからいいかなって、孤児だし問題ないと思ったしね。

いいデザインのアクセサリー出し、よくわからないけどすごい魔道具らしいから俺も欲しかったからさ」


 自分勝手なクズ息子。どうしてくれようか。


「院長先生。俺達のこと怒ってくれているのは嬉しんだけどさ。顔が怖いよ」


「院長先生。美人な顔が台無しだよ」


「綺麗な顔な人が怒りを露にした顔をすると恐怖感が何倍にもなるんだな」


「キャリちゃんの前では絶対見せないでね。その顔。恐怖で院長先生に近づいてこなくなるよ」


 ダニエルとミリーから散々な言われようだ。

 でも怖がりなキャリには見せちゃいけない顔をしているんだな。

 怖がられたくないし気をつけよ。


「この魔導具。子供たちから貰ったとしてもあなた達には何の役にも立ちませんよ。

アクセサリーとしてしか使えませんし、付いている石も大したものではないので大した価値もありませんしね」


「なぜ使えないでしょうか?」


「映像や音声が記録できるんですよ。トラブル時以外にも使えますし、悪用もできるじゃないですか……」


「悪用するとは限らなんのではないか」


「イヤイヤ。子供たちがつけている物を奪ったりする様な人であれば悪用一択でしょうから安全対策は必須でしょう」


「販売はしていないのですか?」


「私以外に作れる人を中々集められないみたいなんです。

身内や信頼している人たちにプレゼントしたり、孤児院の子供たち身に付けさせているくらいで今のところ販売予定は立ってないですね」


「奪っても使えない。

だから孤児たちに力尽くで奪われそうになる前にあげちゃいなさいと言ったのですか?」


「そうですよ」


「孤児たちが攫われて使うように命じられたりするかもしれないじゃないですか?」


「その対策もしてありますよ。攫われても居場所がわかる機能もつけてますからね。」


「そうですか」


 そう言って残念そうにガッカリと肩を落とした。まさか……


「あれれ。店主さんさっき言ったこと実行しようとしてました?

店主さんはフルーツだけでなく人を違法に売買なんてこともやってたりするんですか?

そんな事をしていたら当主であるお兄さんに迷惑かけちゃいますよ。

男爵家無くなっちゃうかも……」


 ニヤッと笑いながら店主に言ってみた。


「そんな事してませんです!!はい!!」


 店主は真っ青な顔をして否定した。


「そうですか。良かったです」


「院長先生。ニャッと笑って院長先生の方が悪人みたいです」


「院長先生。いつも大きなネコちゃん被って隠している腹黒いのが表に出てきちゃってます」


『アハハハ』


「「「……」」」


 ダニエルとミリーは、今度はコソコソではなく、皆に聞こえるように言ったもんだから笑いが起こった。


 中には顔を引きつらせる人、苦笑いしている人もいたけどもね。


「父さんのことはゆるしてやってくれ。

俺、母さんから孤児たちをちょっと懲らしめてやれって言われたんだ」


「お母様がそう言った理由を話してくれましたか?」


「ああ、孤児なのに自分より質のいい服来ているなんて許せないって、あと孤児に勉強なんか必要ない孤児に勉強させるくらいなら俺に勉強教えてくれればいいのにって言ってた」


「そうですか……仕事するのに知識があれば就ける仕事の幅も広がるのですから必要な決まっています」


 服の質問題ね。まあそれは何か言われるだろうと思っていたから子どもたちには可哀想だけど別にいいとして……


 この世界は、勉強は王侯貴族以外する必要ないと王侯貴族以外学べる環境ない国ばかりだ。


 しかしリッシュランド王国は王立学園は王侯貴族や特待生の平民しか入学して学べないけど、平民の為の学校である都立学園や領立学園はお金を払えば学べる。


 お金が払えず学ばせてあげれない人たちに勉強を無料で教えている私塾もある。


 王族だろうが貴族だろうが平民だろうが、孤児だろうが勉強が必要ないということない。


 リッシュランド王国は学ぶ内容に差はあるが学べる環境はあるのだ。


 多くの孤児院では勉強を教えたりしないが、うちの孤児院は孤児院の子供だけでなく、お金が払えず学園に行けない子供だけでなく子供の頃学べなかった大人たちも受け入れており勉強を無料で教えている。


「ご存知の方もいるでしょうし、通わせたり通っている方もいるかもしれませが……

払う学費が無くって学園に通わせられないお子さんや子供の頃に勉強できなくて今から学びたい大人たちも学べるようにうちの孤児院はしているんですけどね」


 ただし、大人は1回でも子供は数回、孤児院の子供たちが発端ではない問題起こした場合は、即退室それ以降お断りとなるけどね。


「その気持ち少し分かるかも……勉強の方じゃなく着ている服の質の方ね」


 ドロスト母の気持ちがわかるという人たちが現れた。


「何故でしょうか?」


「孤児院って私達が納めた税金で建てたり、家具をそろえたり、食材や服を買ったりしているじゃない……それなのに孤児院の子供たちが自分や自分の子供より質のいい服を着ているのはちょっと……」


 一般的な孤児院の運営みたいに国や領の予算での運営だと思っているから不満があるんですね。


「ああ……そうなんですか。うちの孤児院は土地の買取から全て国の予算は一切使っていません。全て私の私財です」


 第2王妃用の予算で第2王妃としての費用は賄える。


 冒険者として稼いだお金やレシピ登録したものを購入者、購入したレシピを使って稼いだ売上の数%が私の口座に振り込まれてくる。


 今もたまに依頼を受けたりしているし、レシピ関係もその都度振り込まれ続けている。


 だが使い道が全く無い。なので孤児院の運営に使っているのだ。


「そんなはず……」


「言いたいのはそんなはずないですか?あなた達はうちの孤児院に国の予算が使われていると言うことを調べ上げたのですか?

調べもせず、他の孤児院がそうだからうちの孤児院もそうだと決めつけたのではないですか」


 男性の1人が言おうとしたことに被せるようにまくし立てて言った。


「何なら王城に行って、私たちの納めた血税でミシリス孤児院は運営しているんですよねと聞いてみたらいかがですか?」


 まあ、そんな事できるわけないけどね。

 ミリシシ孤児院の名は院長の私と副院長を引き受けてくれたシシリー女男爵の名前を合わせたのだ。

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