29 夢じゃない

「おい! 起きろよ! 二人とも! いつまで寝るつもりだ!」

「ううん……。凛花、おはよう〜」

「姉ちゃん、朝からうるさいよ〜」


 春川さんと付き合ってから、しょっちゅう姉ちゃんに怒られるようになった。

 寝坊してさ……。

 でも……、毎晩春川さんが寝かせてくれないから俺も仕方がないんだよ。観覧車の中で積極的って言ったのはまだ忘れてないけど、まさか……深夜の一時まで寝かせてくれないとは。


 体がボロボロになるまで———。

 いや、恥ずかしいからやめよう。


「また……? 二人やりすぎじゃないの? そして、たまには自分の部屋で寝てよ。愛莉」

「そうかな……? どう思う? 渚くん」

「俺に聞かないでください……」

「それに愛莉のことをよろしくって言ったばかりなのに……。毎晩、毎晩……」


 なんで、俺だけ……怒られるんだろう。

 てか、ドアを開けないと春川さんに怒られるし……、翌日の朝には姉ちゃんに怒られる。俺には選択肢がない。もちろん……、春川さんの目的をちゃんと知っているから……、ドアを開けるしかないけど。毎晩……やられっぱなしで、春川さんに可愛がられるだけだった。


 普通にエロい、食べられるだけじゃん。


「愛莉、楽しいか? 今の生活は」

「うん! 超楽しい!」

「まったく……、やるのは構わないけど、ほどほどにしてよ。渚、目の下にクマができたから」

「えっ! 本当だ!」

「じゃあ、私は先に行くから二人はまず服を着ろ」

「は〜い」

「…………」


 そういえば、俺たち……半裸のまま寝てたよな。

 次はちゃんと服を着て寝よう……。


「愛莉さん。姉ちゃんの話通り、たまには自分の部屋で寝てくださいよ」

「ええ。じゃあ、寝る前まで渚くんと一緒にいられないじゃん。それは嫌だ。私は彼氏と寝る時まで一緒にいたい!」

「…………は、はい」

「ひひっ」


 そして、朝からキスをする春川さんだった。

 やっぱり、キスにはまだ慣れていない。なんか難しくて……、ずっと春川さんに食べられてるような気がする。毎晩、俺をベッドに倒してめっちゃ楽しんでるし……、さりげなく「美味しい」とか言ってるしな。でも、春川さんの満足した時の表情は絶対忘れられないかもしれない。


 可愛いし、エロい。


「はあ……」

「朝から……」

「好き!!! 渚くん〜!」

「俺もです」

「ふふふっ♡」

「朝から恥ずかしい……」


 付き合ってからずっとこんな日々を過ごしている。

 起きた後、床に落ちてる春川さんのシャツを拾って……。くっついて朝ご飯を作ったり、食べたりする。この前までは想像すらできなかったこと、俺が春川さんとこんな風になるとは思わなかった。


 そして……、髪の毛を縛ることとご飯を食べることを俺に任せた。

 お風呂と着替えは自分でできるのに、これだけはどうしても俺にやらせようとしている。

 なんか、お母さんになった気がする。


「あーんしてください。愛莉さん」

「あーん」

「…………」

「私、ピーマン嫌い」

「子供かよぉ……」


 春川さんと付き合って二日後、俺は姉ちゃんと話をした。

 多分……めっちゃ甘えるかもしれないって。当時の俺はなんの話なのかよく分からなかったけど、今なら分かりそう。春川さんが落ち込んでいた時、姉ちゃんがいつもそばで慰めてあげたから。甘えるのが癖になってしまったのだ。それに小学生の頃から一人だったって言われたから、春川さんにも頼りになる人が必要だったかもしれない。


 ずっと寂しかったはずだからな。


 俺より年上だけど、めっちゃ甘えてくる。

 付き合う前とは全然違う。それだけははっきりと言える俺だった。


「渚くんが食べさせてくれるのめっちゃ好き〜」

「そうですか? 子供みたい」

「彼氏の前だから、甘えたくなる……。好きって言ったのは渚くんだよ〜?」

「はいはい。あーん」

「あーん」


 もぐもぐと食べる春川さんを見て、笑いが出てしまう。

 なんか、ハムスターみたいだ。


「私ね、最近悪夢を見ないようになった」

「えっ? そうですか? じゃあ、今までずっと…………」

「たまにね、あの時の夢を見るからつらかったよ。一人で寝る時は嫌なことを思い出してしまうから、なるべく渚くんと一緒にいたかった……」

「そうだったんですか……」

「うん。面倒臭いよね? 私」

「いいえ……」

「ふふっ」

「バカ」

「そういえば、渚くん昨日めっちゃ可愛い声を出してた———っ」

「はいはい。野菜も食べてください! 愛莉さん」


 恥ずかしくて、すぐサラダを食べさせた。


「へへっ、恥ずかしいの〜?」

「うるさい!」

「私の彼氏になってくれて、本当にありがと。渚くん」

「えっ? いきなり?!」

「私、自分の気持ちを上手く伝えられないから……、渚くんが言ってくれるまでずっと待ってたよ。でも、やっぱり……言わないと分からないよね。こういうのは……」

「そうですね。俺も、ずっと悩んでましたよ。愛莉さんに……告白をするのを」

「めっちゃ照れてたよね〜。私まだ忘れてないよ〜? 観覧車でやったこと♡」

「それはもう忘れてくださいよ!」

「嫌です〜」

「もう〜」


 姉ちゃんは全部知っていた。

 俺たちが何を考えているのか、そしてそれを言えなかったこともな。


「一緒にいてくれて、ありがと。あの時も、今も……。ありがと、好きだよ」

「…………俺も、愛莉さんと出会ってよかったです。好きです」

「あの……邪魔してごめんね。そっちに置いてる私のスマホ取ってくれない?」

「り、凛花? いつからそこにいたの!?」

「ね、姉ちゃん!」

「二人が部屋でキスをする時かな……?」


 なんだよ、全部見てたのか。


「私は気にしないか、あはは……」

「…………」


 やっぱり、うちの姉ちゃんは怖い。


 the end.

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

姉と姉の友達 棺あいこ @hitsugi_san

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ