28 遊園地、思い出③
落ち着かない、目が合っただけなのに……心がすごく苦しい。
好きすぎて……、苦しい。
そして、震えている。
「なんで、何も言ってくれないの? 渚くん……?」
好きって言った後、その後は……どうすればいいのか分からなかった。
今まで誰かに告白したことないから……、緊張して……頭の中が真っ白になる。勇気を出して、春川さんに好きって言ったのに、今更……怯えているのか? 情けない男だな、俺は。
「あの……」
春川さんの手をぎゅっと握った。
やっぱり、震えてるんだ。俺。
「うん」
「俺……春川さんと一緒にいたいです。姉ちゃんが初めて春川さんを連れてきた時、一目惚れして。ずっと好きでした」
「…………」
「そして、告白をするのが怖くて、ずっと言えないまま春川さんのそばにいました。断られたら、立ち直れないと思って……。今のままでいいと思ってました……。それ以上は無理だと思ってました。でも、春川さんと過ごす時間が長くなれば長くなるほど、自分の気持ちを隠すのができなくなって……。こうやって、伝えることにしました」
「バカだね。私が渚くんのこと断るわけないでしょ?」
「…………」
「バカ」
「あの……! これで合ってますか? 恥ずかしいけど……、自分が何を言ってるのか……。全然分かりません」
「合ってるよ。渚くんは、私に告白をしたよ。眺めのいい観覧車の中で、二人っきりの観覧車の中で。完璧だよ」
「…………」
近い……、春川さんの顔が近い。
この距離なら……キスを。
いや、何を考えてるんだ……。バカみたいだ。
「前に……、言ったよね?」
「はい?」
「私に何をされても構わないって」
「あっ、はい……」
「もう一度聞くけど、本当に何をされても構わないの?」
じっと俺を見つめる春川さん、何をするつもりだろう。
別に春川さんには何をされても構わないけど、「もう一度聞く」って言われたらさすがにちょっと怖くなる。でも、そう言っている春川さんの顔がだんだん赤くなっていた。
なんか、恥ずかしいことでも起こりそうな雰囲気。
何も言えず、こくりこくりと頷いた。
「…………」
「あの———っ」
ん……? 静かなこの雰囲気が嫌だったから、話題を変えるつもりだったけど。
なぜ、こんなことをしてるんだろう。
息が……。できない……。
「…………ちょっ———」
「…………」
ダメだ。逃げ道がない。また、入ってくる。
二人っきりの観覧車、腕を引っ張る春川さんが俺にキスをした。
なんか、ぬるぬるして……、恥ずかしくて……、すごく気持ちいい感触だ。
春川さんの舌か。
「…………」
「はあ……」
目を合わせない……。
今、春川さんを見るといろんな意味でやばいんだから……、目を合わせないよ。なんだ。今のは一体なんなんだ……? 俺は好きって言っただけなのに、いきなり……キスをされて、こんなことがあってもいいのか? 分からない。これから俺たちの関係はどうなるんだろう。頭の中が複雑でどうすればいいのか分からなかった。
顔が熱くなって、息が荒い。
心臓もドキドキする。
「だから、言ったでしょ? もう一度聞くって。頷いたのは渚くんだよ?」
「は、はい……」
「こっち見て」
「は、はい……」
「へえ……、渚くんの顔真っ赤になってる! 可愛い!」
「…………か、からかわないでください。今、すごく恥ずかしいです」
「私もだよ? へへっ」
「…………」
いや、普通は……手を繋いで、腕を組んで、ハグをして、その後に……キスを。
あ。全部やったのか、俺たち。
キスだけやってなかったっけ。
「嫌だった?」
「…………えっと、え…………」
「はっきり言って、気持ちよかった?」
「き、気持ちよかったです」
「ふふっ♡ ならいい」
「…………」
ドキドキしすぎて、息ができない。
それに、春川さんの感触がまだ残ってるような気がして、目眩がする。
どうしよう、どうしたらいいんだ。
「私……意外と積極的な女だからね。渚くん、覚悟しておいて」
と、耳打ちをする春川さんに俺はもう限界だった。
体をくっつけて、さりげなく抱きしめて。めっちゃ恥ずかしい。
「は、はい……」
「ふふっ。渚くんが私の彼氏かぁ〜。いいね」
「はい……」
「ねえ、渚くん。今度は渚くんがハグしてくれない?」
「は、はい……」
これが、恋なのか……?
すごい、すごいよ……。こういうのは初めてだ。
「ふふふっ♡ 渚くんはね、私のこと大切にしてくれると思う」
「あ、当たり前のことです。は、は……。春川さんですから」
「ねえ! 私、下の名前で呼ばれたい! 春川さんはヤーだ」
「ええ……。それは少しずつ……」
「ヤーだ」
「少し……ず」
「いやだ!」
「愛莉さん……」
「よろしい! 渚くん!」
「はい……」
ただ、名前を呼んだだけなのに、なぜこんなに恥ずかしいんだろう。
下の名前で呼ぶのは意外と恥ずかしいことだった。
知らなかった。これ、めっちゃ恥ずかしいんだけど……? それに愛莉って呼ぶのはずっと姉ちゃんの特権だと思っていたから、その呼び方には慣れない俺だった。
愛莉さんか……。
「ねえ、もう一回呼んでくれない?」
「愛莉さん……」
「好き!」
「…………」
……
「ねえ、私も見たい奏美。双眼鏡貸して」
「ちょっと待って。今肝心なところだから」
「ええ〜」
双眼鏡で観覧車の中を覗く奏美、その後ろでりらがニヤニヤいていた。
「あのさ、望月。俺、何しにここに来たんだ……?」
「はあ? あんたが運転しないと誰がするんだよ」
「そっか……。一応、奏美の車だけど……運転は俺がするんだ……」
「でも、いい結末でよかったね。凛花」
「は、はい! 秋穂先輩」
そのままじっと三人を見つめる連夜。
「…………」
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