25 私のこと
「愛莉」
「うん?」
「今日は久しぶりに先輩たちと話をしよう」
いまだに忘れられない、あの時のこと。
大嫌いだけど、忘れられないほど好きだった人……。なぜ、そうなってしまったのかは分からない。初恋の相手だったのにひどいことをされて、私は「別れよう」と彼にそう言った。それは恋というのをよく知らない頃の話、まだ人についてよく知らない頃の話。私がバカだった頃の話だ。
そして、それがトラウマになって、年下の渚くんに甘えるのもバカみたいだ。
でも、渚くんはいつも私のことを全部受け入れてくれるから……、頼ってしまう。
私は渚くんのことが好きだから。
「凛花と愛莉! 待ってたよ。今日はりらもきたから」
「あっ、はい! 秋穂先輩、久しぶりです」
「ふふっ」
「私、見たよ。愛莉」
「はい? 何をですか? 秋穂先輩」
「元カレに声かけられたよね?」
「は、はい……」
「私の後輩に勝手に声をかけるなんて。次は半分殺してあげるから、また来たら私に連絡して」
「は、はい!」
怖い先輩たち。でも、そう言ってくれるから頼りになる。
「ふふっ」
私の好きだった人は、私が高校生だった時に浮気をした。
恋について、人について、よく知らなかった私は凛花にその話を聞いて、ショックを受けた。私はすぐ元カレに声をかけたけど……、彼はそれを認めなかった。証拠を見せてあげる時まで私と付き合いながら知らない女の子と浮気をしていた。
そんな人だった。
そして、悪いことをしたのは自分なのに……。
殴られるのは私だった。
私に「可愛い」って「一目惚れした」って、そう言ってたくせに……。もっと可愛い女の子と出会って、私のことを捨てちゃった。最初から、やることだけが目的だったように、自分にもっと優しくしてくれる女の子を選んだのだ。
私はまだ未熟で、恋愛とかやったことないから……難しかった。
そんな私を……彼は何気なく殴った。理由は、ムカつくから。
その傷痕はいまだに残っている。消えない、傷痕が…………。
「…………」
凛花はそんな私を知っていた。
そして、そんな私と友達になってくれた。
「どうやら、新しい彼女と別れたみたい」
「へえ。だから、愛莉のところに戻ってきたんですね。あの人、愛莉のことを単純な女だと思ってるはずだから」
「やり方があいつと一緒だね。奏美」
「そうだね。汚い、自分の彼女にあんなことをするなんて……。はあ……」
凛花と仲がいい先輩たち。
この先輩たちも高校時代に私と同じことを経験したって、凛花に言われたことがある。そして、凛花は人気者だけど、私以外他の友達と遊んだりするのを見たことがない。この先輩たちを除いてね。
私と同じく知らない人を警戒する凛花だから、凛花と仲良くなったのは信頼できる人ってことだ。どっちも美人で少し苦手だけど……、優しくて私のことを理解してくれる良い先輩たちだった。
「だ、大丈夫です! 今の私には……!」
「渚がいる、だよね?」
「凛花……」
「ああ、渚くんならあの子かな? たまに、正門で誰かを待っている高校生」
「はい。あの子です。私の弟です」
「へえ、凛花の弟か〜。年下はいいよね〜。食べやす———イタタタッ!」
「りら」
「ごめんなさい……」
今、食べやすいって……。やっぱり、秋穂先輩だ。
ふと「何をされても構いません」と言った渚くんを思い出してしまう。
私も……変態だったんだ。
「最近、愛莉が元気なさそうに見えるって凛花に言われてね」
「はい? 凛花に?」
「そうだよ。愛莉が笑わないと、凛花も元気出せないから。笑ってあげて」
「な、何を言ってるんですか! 朝比奈先輩!」
「あははっ。仲がいい二人を見ると私も嬉しくなるからね」
「…………もう」
凛花は……ずっと私のことを心配してくれた。
ずっと……。
そして、たまにこうやって先輩たちとカフェで話をする。そうすると、少しは楽になるから、凛花も知っていた。一人になった時の私がどんな顔をしているのか、全部知っていた。友達……凛花しかいない私だったから、大学生になった時、同居しようと私を誘った。
私は、そこに行けば……会えるかなと思っていた。
高校生の時にはしょっちゅう凛花の家に行ったけど、そこは私の家じゃなかったからずっと二人のそばにいるのは無理だった。また、渚くんと遊びたい。一人でそれだけを考えていた。
そして、ドアを開けた時、渚くんが凛花と私の荷物を片付けていた。
そこで「あ! 春川さんだ!」と言ってくれた渚くんをまだ忘れていない。
私たちが一つ屋根の下で暮らすようになったのは全部凛花のプランだった。
知っていたけど、知らないふりをしていた。
先輩たちといろんな話をした後、凛花とカフェを出る。
二人で歩きながら、昔の話をした。
「ねえ、凛花はどうして私と友達になってくれたの?」
「うん? いきなり?」
「へへっ」
「理由はないよ。ただ……友達になりたかっただけ、かな?」
「へえ……。私、凛花と友達になってすごく嬉しい」
「いきなりどうしたの?」
「私、凛花も渚くんもすっごく好き!」
「バーカ、私も好きだよ。でも、渚のことは10%くらいかな」
「え、ひどーい」
落ち込んでいる私を支えてくれたのは、凛花と渚くんだった。
この生活がすごく好きだ。
「そういえば、渚くん。今、学校に来てるって」
「あのバカ、そこで何してんの?」
「多分……私のことが心配で、迎えに来たかもしれない」
「ふーん、行くか」
「うん!!」
私は凛花のおかげで、新しい人と出会った。
あの時の渚くんはとても優しかったから、その純粋な笑顔に惚れてしまったのだ。
まさか、私が誰かを好きになるとはね。
渚くんのそばにいると、落ち着く。
すごく気持ちいい。
「あ、カバンカフェに置いてきた」
「愛莉……」
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