26 遊園地、思い出

「渚くん! お待たせ〜」

「春川さん…………」

「うん? どうしたの?」


 やばい、めっちゃ可愛いんだけど……。

 そして、俺は今日春川さんと……遊園地でデートを……! デートをするんだ。緊張して昨夜は寝られなかったけど、全然疲れていない。不思議だ。むしろ、私服姿の春川さんにすごくドキドキしている。


 思わず、「好き」って言ってしまいそうな……気がした。

 それほど危険だったと思う。


「可愛い? 今日の私」

「…………えっと、は、はい……」

「照れてる〜。可愛い! 渚くん!!」

「…………」

「今日は渚くんとデートをする日だから、新しいスカートを買っちゃったよ! 可愛いんでしょ?」

「は、はい……」


 ちょっと短いけど……、いっか。


「手!」


 マンションの前でさりげなく言い出したその言葉、彼女は俺を見て笑っていた。

 小さいその手のひらを見て、少し緊張していたけど、そっと春川さんの手のひらに俺の手を乗せた。やっぱり……我慢できない。こんなに可愛い春川さんが目の前にいるのに、俺は……いつまで我慢できるのか分からない。


 春川さんのことが好きだ。


「よっし! 遊園地に行こう!」

「は、はい!」


 ……


 近い、近すぎる。でも、これが好き。

 電車に乗る時も、歩く時も、春川さんの手を俺は離さなかった。

 すると、さりげなく俺と腕を組む春川さん。家にいる時みたいに抵抗するのはもうできない。好きになってしまった以上、ずっとこのままでいたくなる。そして、不安を感じないように……、春川さんが幸せだけを感じるようにな。


 二人は体をくっつけた。


「おお! 入り口可愛い!」

「そうですね」

「ねえ、ジェットコースター乗らない!?」

「いいですね。行きましょう」


 意外と、ジェットコースターだった。

 乗ったことはないけど、大丈夫かな? もちろん、俺のことだ。


「渚くん」

「はい?」

「私、怖いんだけど…………。どうしよう! こんなの乗ったことないよ!」


 さっき堂々と言ったのに!?


「俺が……そばにいます。怖かったら、目を閉じてください。あっという間に終わりますよ。これ」

「う、うん……」


 遊園地はいつか彼女と行ってみたかった。

 ジェットコースターとかも、彼女と一緒に乗りたかった。

 それを、春川さんと一緒に———。


「キャー!」

「…………」


 そして、俺も怖いから前を見なかった。

 その代わりに……そばで目を閉じている春川さんを見ていた。じっと目を閉じて、しっかりと安全バーを掴んでいる春川さん。自分から言っておいて……すごく怖がっている。その姿が可愛すぎて、なんとなく彼女の頬をつついた。


 頬、柔らかい……。


「うわぁ……、すごく怖かったぁ……。死ぬかと思ったぁ……」

「大丈夫ですか? 春川さん」

「うん。でも、楽しかったよ! 怖かったけど……」

「ふふっ」


 また、手を繋ぐ春川さん。


「次は……、ここ! お化け屋敷! どー!? 渚くんは怖がりだから! ふふっ」

「春川さん、わざとぉ……!」

「行きましょう〜! あはははっ」


 行きたくないって言えない。

 どうしよう……。


「あ。ここだ」

「春川さん、他にもいいアトラクションたくさんありますよ!? お化け屋敷はあまり楽しくないと思います!」

「そうだね。でも、渚くんが嫌がってるから行くしかないね!」


 頑張ってみたけど、失敗した!


「ねえ、渚くんはなんでそんなに怖がってるの? 別に怖くないと思うけど」

「幼い頃にですね……。姉ちゃんが変な仮面を被って、俺をびっくりさせたことがあります。思い返せばそんなに怖い仮面じゃなかった気がしますけど、そのせいで、いつの間にか幽霊とかが怖くなりました。全部、姉ちゃんのせいです」

「へえ……、そうなんだ? じゃあ、私から離れないで! 守ってあげるから」

「絶対、離れません」

「…………」

「春川さん? どうしましたか?」

「うん? な、なんでもない!」


 さっき、何か言おうとしたような……気のせいか。

 そして、出口まで歩く時、誰か俺の肩を掴んだ。


「春川さんですか?」

「うん? 何が?」

「いや、違う。これは……」


 後ろから出てきた白い手を見て、すぐ春川さんの方に倒れてしまった。


「うっ……! な、渚くん。大丈夫なの……?」

「す、すみません。誰かが肩をつかん———」

「えっ」


 まずい、顔がすごく近い。

 中が薄暗くて、よく見えないけど……春川さんの息が聞こえてきた。

 それに、今の体勢……まるで春川さんを襲ってるような……!


「す、すみません! 春川さん!!!」

「えっ? だ、大丈夫……」


 手首を掴んで素早くそこから逃げ出した。

 そして、息を吐く。


「…………すみません、びっくりして……」

「大丈夫〜。気にしな〜い!」

「は、はい……」

「よく耐えたね! 渚くん」

「頭の中が真っ白になって、出口まで走りました……。それだけです……」

「可愛い〜」

「恥ずかしいです……」

「渚くん、腕!」

「あっ、はい……」

「私ね、これから渚くんとパフェ食べたいけど! 食べる?」

「はい! 食べたいです!」

「よっし、行こう〜!」


 まるで恋人みたいに……、俺と腕を組む春川さん。

 好きじゃないとできないこと……、手を繋いだり腕を組んだり……、俺が春川さんと……恋人。ほんの少しだけ、その未来を想像してみた。すぐそばで……笑みを浮かべる春川さん、その可愛い顔で今俺を見ている。


「…………」


 女子と話すのは苦手だった。

 でも、春川さんと話す時は違う。

 普通に話している。


「あーん」

「は、はい!」

「美味しいでしょ!」

「そうですね!」

「ねえねえ、写真……撮ろう! 渚くん!」

「はい!」


 隣席に座る春川さんと……頬をくっつけた。

 そのまま写真を撮る。


「また、大切な思い出ができたね。渚くん」

「はい!」

「あーん」

「あ、あーん」


 これは夢じゃない。

 現実だ。

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