24 気になる

「…………」


 なんか、変だ……。

 なぜ、こうなってしまったんだろう。あの春川さんが今俺のベッドで寝ている。

 朝から俺をからかうつもりか……? 油断したらまたやられるかもしれない。注意しよう。


「渚くん、おはよう」

「えっと。なぜ……、ここにいるんですか? 春川さん。部屋はこっちじゃないはず……」

「渚くんと一緒に寝たかったからね!」

「鍵……ちゃんとかけましたけど?」

「壊した!」

「ええ……」


 朝から堂々とバカなことを言っている。

 そして、不安が感じられない。

 どうやら、あの人のことはもう忘れたみたいだ。あるいは、思い出せないようにしてるかもしれない。どっちにしても……、春川さんが明るくなったからそれでいいと思う。


 まずは姉ちゃんが起きる前に、ここから春川さんを追い出さないと……。


「凛花、朝だよ。起きて」

「ああ、もう朝かぁ。渚、朝ご飯は?」


 なんで、俺の左側にいるんだ。

 いつここに来たんだ……!?

 てか、姉ちゃんに全然気づいてなかった俺もすごいな。


「…………」

「どうした? 朝からぼーっとして」

「いや、ここ……俺の部屋だよね?」

「そうだけど? 問題あるのか?」

「いや、特にない」

「朝ご飯」

「はい…………」


 ……


 特にやることもない休日、キッチンで朝ご飯を作っていた。

 そして、さっきから俺とくっついている春川さん。すぐ後ろで俺のシャツを掴んでいる。この前と反応が全然違うけど……、カフェで何かあったのかな? それに、姉ちゃんも……なんで二人とも俺の部屋で寝てたんだろう。分からない。


 一体、二人の間に何があったんだ……?


「あの、春川さん?」

「うん?」

「俺……、なんか悪いことでもしましたか?」

「別に? なんで、そんなことを聞くの?」

「いや……、春川さんと姉ちゃんが俺の部屋で寝てて……。何かあったのかなと思って」

「あ、それはね。こっそり渚くんのベッドに潜り込もうとしたら、凛花にバレちゃって。えへっ」


 それを堂々と言ってもいいんですか……。


「なんで、俺の部屋に……」

「私が一番苦しかった時に渚くんがいてくれたから! そのお礼として、私も渚くんのそばにいてあげたかったよ! ふふふっ」


 なんだろう、そのドヤ顔は。

 ただ一緒に寝たかっただけ———。待って。

 その時、俺は柳さんに言われたことを思い出した。好きじゃないとできないこと、これは……柳さんが言ったあれか? 春川さんがわざわざそんなことをした理由は俺のことを姉ちゃんの弟じゃなくて、一人の男として見てくれるってこと……! なぜか、テンションが上がる。


 好きとか、そういうこと。

 つまり、俺にも可能性があるってこと。


「渚くん、なんか気持ち悪い」

「えっ!? な、何もしてないんですけど?」

「笑い方が変態みたいで気持ち悪い! エッチなこと想像したでしょ?」

「そ、そんなこと……」

「渚……」


 そして、下着姿の姉ちゃんがキッチンに現れた。


「凛花、服を着て!」

「…………」

「あっ、うっかりした……」

「シャワーを浴びたら服を着ろぉ!! 常識だろ!!」

「いい匂いがしてね。ふふっ」

「…………」


 朝からいろいろあったけど、一応……朝ご飯を食べる三人。

 テンションが上がってる春川さんといつもと同じ姉ちゃん。

 そして、疲れている俺。


「あのさ、姉ちゃん。朝からこんなことを聞くのは良くないと思うけど……」

「じゃあ、聞くな」

「気になるから……」

「なんだ? 聞きたいのは」

「なんで、春川さんと俺のベッドで寝てたんだ?」

「あ、それは水飲みに行った時、愛莉が渚の部屋に入るのを見たからだよ」

「それで?」

「また変なことをするかもしれないから、私もそばで寝ちゃった。疲れたから」

「そうなんだ」


 全然理解してないけど、一応そう答えた。


「私、何もしてないのにね〜。凛花に疑われて。じゃあ、一緒に寝ようよ! 何もしないのを証明するから! みたいになっちゃって」

「へえ……」

「あの、春川さんは自分の部屋で寝てください。俺のベッドで三人は無理ですよ」

「それって! 凛花と寝るのは大丈夫ってことなの!? そうなの!? ひどい!」


 なんで、そうなる?


「そうだよ。愛莉はもう大人だからそんな子供みたいなことはやめて」

「凛花もそばで寝たでしょ……?」

「私は愛莉のことが心配だから、様子を見に行っただけだよ」

「ふーん」

「愛莉は知らないかもしれないけど、渚は変態だから。びしょ濡れになった私に渡したTバッグはいまだに忘れられない」

「あ……。そうだったよね。渚くんはTバッグが好きだったよね。エッチ」


 話の流れがちょっとおかしいんですけど、春川さん?

 まあ、俺たちいつもこんな風に話してたからいいか……。


「そうだ。これ」

「遊園地のチケット? しかも、二枚?」

「そうだよ。二人で行ってきて」

「おお! くれるの? 遊園地かぁ〜」

「春川さん、遊園地好きですか?」

「行ったことはないけど……、テレビやネットで見たことあるよ」

「へえ……、俺も行ったことないです」

「じゃあ、二人で行ってこい。きっと楽しいはずだから」

「うん!」


 そう言いながら俺の頭を撫でる姉ちゃんだった。


「ちゃんと愛莉のことエスコートしてあげて、渚」

「あっ。うん……」


 今まで一度も行ったことない遊園地。

 きっと姉ちゃんの話通り楽しいはずだ。夏祭りの時も一緒だったし、このチケットでまた春川さんと特別な場所で思い出を作る……。ひょっとして、これはチャンスかもしれない。春川さんと二人っきりで話すチャンス……。それを言うチャンス。


 楽しみだ。


 そして、向こうに座ってる春川さんがそっと俺の膝に足を乗せた。


「楽しみだね! 遊園地!」

「そうですね」

「ふふふっ」


 両足……全部乗せた。

 子供かよ。

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