23 アドバイス

 昨日……何があったのか、全然思い出せない。

 それでも、春川さんのそばで寝落ちしたのは変わらなかった。そのせいで、授業中にも休み時間にも……何をしても春川さんのことばかり考えてしまう。意識してはいけない。俺が部屋に行ったのは春川さんが不安だったからだ。


 他の……目的はない。


「…………あ! もう……! 頭の中が春川さんでいっぱいだぁ!」


 そんなバカな。

 でも、春川さんの温もりだけはちゃんと伝わってきたから、恥ずかしい。

 いまだにそれを覚えている。


「…………あれ? 奏美の後輩の弟!」

「あっ、柳さん。どうしてここに?」

「奏美、今日望月とカフェに行くって言ったからさ。いろいろ話したいことがあったみたいだ」

「はい……」

「それで、今暇か?」

「はい? 一応……、春川さんを待っています」

「あ、春川か。春川も望月と一緒にいるはずだから……、今日は男同士で話をしてみよう。渚」

「は、はい」


 女子同士でカフェで話をするのか。

 まあ、俺も連絡せず学校に来てしまったから、仕方ない。

 一応、春川さんにラ〇ンを送っておいた。


「よっし! 行こう!」


 そして、近所にあるベンチに座る二人。

 俺は柳さんと何を話せばいいんだ? 分からない。


「渚ってさ、好きな人いる?」

「えっ? あ、はい……。一応、います」

「告白は?」

「してません」


 逆に、聞きたいことが山ほどある。

 こんなカッコいい人はどんな高校時代を過ごしたのか、そして……どうやってあんな美人と付き合ったのか。余裕のある柳さんを見て、俺は羨ましかった。何があっても動揺しない強い人、俺にはそんなイメージだったから。


 うちの姉ちゃんと対等に話している時点で、すごいと思っていた。


「春川?」

「えっ?」

「好きな人、春川だろ? 渚」

「どうやって、それを……」

「この前によく知らない男と口喧嘩しただろ? 春川を守るために」

「ええ! それを見ましたか」

「うん。俺も大学生だから、たまたま……あはは……」

「はい……」

「あのさ、悩みはないのか? 聞いてあげるから」


 春川さんのことなら、聞いても無駄だと思うけど……。


「今は特に……」

「そうだ。望月がさ、自分の弟があの時の俺とそっくりって言ってさぁ……」

「柳さんとそっくりですか?」

「そうだよ。俺も……奏美と付き合う前には渚と一緒だったから。確信がなくて、どうすればいいのかよく分からなくて、結局……諦めてしまった」

「へえ……」

「もし、好きな人がいるなら……自分の気持ちを早く伝えた方がいいよ」

「でも……、嫌われたくなくて、そのままいいんじゃないのかなと……」

「あの時の俺と同じことを考えてるね。好きなら、はっきりと言っておいて。今の渚なら、断れないと思う」

「…………」


 カッコいい人の話だから……、柳さんはそうできるかもしれないけど、俺には無理だよ。一応、同じ家に住んでるしな。俺も同じ家に住んでなかったら、柳さんの話通り告白したかもしれない。いや……、あれのせいでダメだと思う。


「あの……、春川さんは……男のことあまり好きじゃないと思います」

「えっ? そ、そうか?」


 なんで、納得のいかない顔をしてるんだろう。


「春川って、しょっちゅう望月と渚の話をするけど、どんなイメージだろう。俺にはそう見えなかったのにな」

「えっ? 学校でですか?」

「ああ、そうだよ。奏美と秋穂先輩、そして望月と春川。四人でいつも渚の話をするからさ」

「ええ……」

「怖いよ、あの四人は……」

「なんで、俺の話を……」

「まあ、女子同士の話は大体そんなもんだろう。要するに、渚は春川に好かれているかもしれないってことだ。思い出してみて、好きじゃないとできないことをたくさんやったはずだから」


 そんな話をしても……、好きじゃないとできないことか。

 夏祭りに行ったり、俺のことを抱きしめたりすることかな。


「あったと思います……多分」

「そう! それ! 手を繋いだり! そんなことあっただろ?」

「は、はい……」

「な〜ぎ〜さ〜くん〜? ここで何してんの〜?」


 すると、後ろから春川さんの声が聞こえてくる。

 いつ後ろに来たのかは分からないけど、両手で俺の頬を引っ張る春川さんだった。

 緊張して、全然動けない。


 てか、めっちゃ触ってるし、どうすればいいんだろう。

 もみもみ……。


「柳、あんたここで何してるんだ」

「あはは……、俺も渚のことが少し気になって」

「あっ、柳くん。朝比奈先輩が探してたよ?」

「マジか!」

「早く行かないと怒られるかも?」

「マジかぁ!」

「早く行ってみて」

「じゃあ、またな。渚」

「は、はい」


 彼女の名前を聞いて急ぐ柳さん、俺と一緒……ってことか。


「で、二人で何話してたの? 渚くん」

「渚、なんで連絡もせずここに来たんだ?」

「春川さんのことが心配で。でも、ラ〇ンはちゃんと送ったよ?」

「私には送ってないだろ? このバカ」

「ご、ごめん……」


 そして、姉ちゃんにも頬を引っ張られる俺だった。


「じゃあ、今日は三人で帰ろう! 楽しそう〜」

「渚」

「うん?」

「私、今日鍋料理が食べたい。やってくれるよね?」

「う、うん」

「鍋!? 今日鍋なの!? やったぁ!」


 どっちが年上なのか、たまに分からなくなる。

 でも、柳さんと少し話してみた俺は……早く俺の気持ちを伝えた方がいいと思っていた。もし、春川さんも俺のことが好きだったら、上手くいけるかもしれない。勇気を出してみようか。


 てか、俺が……告白をするのか? 春川さんに。

 今まで一度もやったことないけど……、上手くいけたらいいな。

 告白かぁ。


「…………」

「うん? どうしたの? 渚くん」

「い、いいえ。なんでもないです。今日はネギ買いませんから」

「ネギないの!? 健康にいいよ! ネギは」

「でも……、まだ家にたくさん残ってますから」

「ひん……」


 そして、さりげなく俺の手を握る春川さんだった。


「…………」

「ネギ……」

「わ、分かりました」

「ダメだ、渚。私、ネギ無理……って伝えてくれ」

「って姉ちゃんに言われましたけど」

「ひん……」


 いや、それくらい直接話してもいいだろ。

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