17 難題②

 おかしい、渚くんがおかしい……!

 どうして、私と一緒にショッピングしてくれないの……? 凛花とは楽しくショッピングしたくせに! 私が誘ったら「クラスメイトと……約束が」って、今までそんなこと全然なかったのに、いきなり約束はずるい。


 日曜日は私の誕生日だよ……。渚くん……。

 少し悲しかった。


「…………凛花」

「どうした? 愛莉。さっきから怖い顔してるけど……」

「渚くんに……好きな人ができたかもしれない! どうしよう! 凛花……これは緊急事態だよ!」

「…………」


 コーヒーを持ったまま、ため息をつく凛花。


「こ、根拠は?」

「あの渚くんが……クラスメイトと約束があるって言ったよ! いつも家で私たちと時間を過ごしていた渚くんがね!」

「一体……、愛莉の中で渚はなんなんだ……」

「う———っ! でも、気になるから……」

「…………明日、渚と丸一日くっつくつもりでしょ? 愛莉」

「そ、それはそうだけど……! 今日は渚くんとショッピングしたかったから……」


 男の人は難しい……。

 普通……女子がくっついたり抱きしめたりすると、ドキッとして好きになるのに。

 渚くんは照れるだけで何も言ってくれない。何もしてくれない。私は……精一杯頑張ってるのに、あのバカは勇気を出してくれないから……ムカつく。でも、可愛いから……許してあげた。


 高校生の時からずっと見てきたからかね……。

 渚くんと一緒にいるのがすごく楽しい。

 だから、家にいてよ!と言いたかった。


「そういえば、凛花もしょっちゅう渚くんとくっついてるんでしょ!? 渚くんに私たち以外の女ができてもいいの?」

「別に気にしないけど……」

「私は気になるんだよぉ〜! あああああ!!!!!」

「愛莉、落ち着いて」

「でも……!」

「そろそろ愛莉の誕生日だから、友達とプレゼント買いに行ったかもしれない」

「あ! そうなの? 嬉しいけど、私はそんなのいらない……。渚くんは私のそばにいてくれるだけで十分だよ!」

「私といる時は堂々と言えるのに、なんで渚の前では言えないんだ? 愛莉」

「…………」


 そう言われたら、答えづらい。

 手を繋いだり……、抱きしめたりするのは難しくないけど……、渚くんの方から私にそれを言ってほしかった。正直、私もどうしたいのか分からない。恋をするのは怖いのに、そんなことしないって決めたのに……。渚くんと同居を始めてから、またやりたくなった。


 恋というのを……。


「怖い……? 愛莉」

「…………まだ、少し」

「でも、今は渚がいるんでしょ? 怖がる必要はない。そして、渚も……愛莉以外の女と付き合ったりしないから、そんなに心配しないで」

「そうだよね? うん……!」

「まったく……、渚のやつ鈍感だから……」

「そうよ!」


 まったく……、鈍感な渚くん。帰ってきたら……、一言言ってあげないと。

 昨日もめっちゃ怒ってたのに、頬をつついて……私をからかってたし! 凛花と私は何が違うのかな……。私も怒ったらけっこう怖いと思うけど……。


 いや……、やっぱり凛花の方がもっと怖いと思う。

 友達だけど……たまに目を逸らしてしまうからね。


「あ、そうだ。愛莉」

「うん?」

「脱いで」

「えっ! い、いきなり……?」

「あれを確認したいだけだから。なんでそんなに照れてんの? ブラしてない?」

「ちゃんとし、してるよ!」

「なら、早く脱いでよ」

「うん……」


 あれを確認するためだから、脱がないのもあれだし……。

 仕方がなく、凛花の前でシャツを脱いだ。


「痕が消えないね…………」

「…………」


 指先で脇腹の傷痕を触る時、緊張して……手が震えていた。

 この傷は……、いつ消えるんだろう。

 もう見たくないのに、お風呂に入る時とか、着替える時とか、いつも鏡の前でこの傷痕を見てしまうから嫌だった。もう慣れていると思っていたのに……、またあの時のことを思い出してしまう。


 バカみたいだ、私は。


「うん。でも、毎日……薬をちゃんと塗ってるからね! 私はい、いいよ……。いいよ…………。もう気にしない」

「怖くなったら、添い寝してもいいよ。愛莉」

「こ、子供じゃあるまいし! それはもう卒業したよ!」

「そう? よかったね」

「ありがと……。凛花」

「何が?」

「全部」

「私は、笑う愛莉が好きだからね。笑ってくれるなら持ってるのすべて愛梨にあげてもいいよ。渚も含めて」

「十分だよ。でも、渚くんはもらっておく…………」

「それはもらうんだ。ふふっ」

「うん……」


 その時、渚くんが帰ってきた。


「ただいま。あっ、姉ちゃん家にいたんだ」

「なんだ。喧嘩売ってんのか? 渚」

「意外だと思ってただけ。そうだ! プリン買ってきたけど、食べる?」

「食べる」

「私も!!」


 あれ……? 気のせいかな。

 なんで、渚くんから女の子の匂いがするの? これは……、間違いなく女の子の匂いだ。まさか、そのクラスメイトって女の子だったの? 本当に女の子と一緒に遊んでたの? 渚くん……。


 目の前にプリンがあったけど、頭の中が複雑になって食べられない。

 女の子の匂いと……よく分からない甘い匂いもする。


「渚、あんた女の子の家に行ってきたのか?」

「い、いや、そ、外で……。ちょっと……、クラスメイトたちと……」

「そのクラスメイトって、女の子たちか」

「いや、男も……いたから」

「ふーん」


 渚くん……、嘘つくの下手すぎ。

 やっぱり……、女の子なんだ。


「…………」

「ど、どうしましたか? 春川さん……」

「なんでもない……」

「は、はい……」


 でも、私たちは付き合ってないから……それについて何も言えない。

 それは渚くんの自由だから。

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