18 誕生日

 朝の六時、アラームより十分早く起きた俺はすぐ冷蔵庫の中を確認した。

 まだ、バレてない。昨日……こっそり冷蔵庫の中に入れておいた俺のケーキ、春川さんのためにめっちゃ頑張ったからな……。これで喜んでくれるのかは分からないけど、俺にできるのはこれくらいだった。


 念の為、プレゼントも用意したけど……、予算が足りなくて……。

 高いものは買えなかった。

 高校生だしな。


「手作りケーキか、渚らしいね」

「ね、姉ちゃん……? いつ、後ろに? で、起きるの早いな」

「今日は友達と約束があるから」

「そうなんだ」

「うん。誕生日パーティーが始まる前には帰ってくるから、二人で楽しんで」

「楽しんでって……」

「そうだ。愛莉、今日寝坊するかもしれないから後で起こしてくれない?」

「オッケー」


 頭を撫でる姉ちゃん。てか、こんな時間に約束か……。

 お洒落して……、まさか彼氏!? 姉ちゃんに彼氏!? んなわけねぇだろ。

 そのまま食卓に突っ伏していたら、午前の十一時になってしまった。ドキドキして寝れなかったのは覚えているけど、俺……気絶したのか……? 朝の六時に起きた気がするけど……、おかしいな。


 俺の時間……消えてしまった。


「あっ! そんなこより! 早く、春川さんを起こさないと……!」


 そう。起こさないといけないのに、俺は……一つ大事なことをうっかりしていた。

 それは……春川さんの部屋に入らないといけないってこと。

 当たり前のことだけど、俺は男だから……人がいる部屋には入れない。でも、そろそろお昼食べないと……、きっとお腹空いてるはずなのにな……。なんで、ノックをしても返事がないんだろう。春川さん。


 まさか、まだ寝てるのか?


「あれ? 開いてる」


 さりげなく扉を開けた俺は、ベッドですやすやと寝ている春川さんに気づいた。

 てか、枕を抱きしめたまま寝ている。可愛すぎるだろ。

 昨日、寝れなかったのかな……? 部屋に入ったのは夜の十一時くらいだったと思うけど。


「…………春川さん、もうお昼ですよ。起きてください……」

「えへへっ。お腹いっぱいだから、もうむりぃ〜」

「…………」


 どんな夢を見てるんだろう。


「ううぅ……。美味しそうな饅頭………、ハムッ!」

「ん?」


 なぜか、春川さんに腕を噛まれた。

 どんな夢を見てるんだよぉ……、一体。


「あれぇ……? なんの味もしな……い…………。なぜぇ?」

「…………」


 そう言いながら目を開ける春川さん、俺は……ここにいてもいいのかな。

 そして、目が合った時、春川さんがすごく慌てていた。


「ど、どうして……渚くんがここに!? えっ? 今何時?」

「もうお昼ですよ」

「そうなの? えっ! 寝坊しちゃった! アラームはちゃんと設定した……、スマホ死んでるぅ!!!!!」

「…………」


 じっと春川さんを見ていた。

 すると、お腹が「ぐうぅぅ」と鳴いて、顔が赤くなる。可愛い。


「一緒に……お昼食べようか? 渚くん……」

「そうですね。お昼の準備をします」

「はい! お願いします!」

「えっと……。その前に春川さん」

「うん?」

「服! 着てください!」

「着てるけど…………」

「ボタン!!!!!」

「あー!」


 そう言った後、すぐ春川さんの部屋から出てしまった。

 マジか、俺……春川さんの下着を見てしまったのか。変態かよぉ! 寝言が可愛すぎて全然気づいてなかった。まさか、ボタンを外したまま寝ていたとは、姉ちゃんに見られたら殺されたかもしれないな。


 いや、姉ちゃんならこうなるのを知っていたかもしれない。

 なんか、そんな気がした。


「ご、ごめん……。渚くん。み、見たの?」

「いいえ。何も……。いいえ、次はちゃんと注意してください」

「へへっ、うん……。お昼、一緒に食べよう!」

「はい」


 てか……、髪の毛縛った方がいいか。

 なんで、いつも自分の髪の毛を食べてるんだろう。春川さんは……。

 それ意外と旨かったり……、んなわけないよな。


「春川さん」

「うん?」

「髪の毛邪魔ですよね? 縛ってあげます」

「うん!」


 相変わらず、いい匂いがするね……。

 こうして見ると、俺たち普通のカップルに見える。


「…………」

「へへへっ〜」


 毎回、春川さんの髪の毛を縛っても……、嫌じゃない俺だった。

 こんな普通の日常が好き。


「ねえ、私……気になることがあるけど、聞いてもいい?」

「はい、なんでしょう」

「渚くん、昨日女の子と一緒にデートしたの?」

「はい? いきなり……?」

「だって、渚くんから知らない女の子の匂いがしたから……」

「ああ……」


 どうせ、いつかバレることだったから隠す必要はないと思う。

 そんなことをしたら誤解されるし。


「クラスメイトの家で、これを作りました」

「いちご……のプリンタルト! えっ? 渚くん、こんなのも作れるの?」

「ほとんどクラスメイトたちが教えてくれました。これは姉ちゃんが帰ってきた後、見せてあげるつもりだったんですけど……。春川さん、めっちゃ気になるって顔をしてて……」

「ご、ごめん。私は……渚くんに彼女ができたんじゃないのかなと思って」

「はい? そんなことないですよ。パン作りの道具とかレシピとかいろいろ教えてもらっただけです」

「そうなんだ……。た、食べてもいい!?」

「はい」


 デザートを一口食べた春川さんがめっちゃ可愛い顔をしていた。

 旨そうに食べるその顔、俺は好きだ。


「あーん。渚くんも食べて、めっちゃ美味しいよ!!」

「はい」

「…………」


 なぜか、じっと俺を見つめる春川さん。

 綺麗な瞳…………。


「春川さん」

「うん……」

「誕生日おめでとうございます。プレゼントは姉ちゃんが帰ってきた後に!」

「うん! じゃあ、凛花が帰ってくるまでまだ時間あるし! 一緒に映画観ようか」

「いいですね!」

「行こう行こう〜」


 ……


 日曜日の午後、俺は春川さんとくっついて二人きりの時間を過ごした。

 まあ、俺は春川さんと一緒にいるだけで十分だけど。

 ううん……。映画観ようって言ったのは春川さんなのに……お昼を食べた後、すぐそばでうとうとしていた。


 スイーツ食べすぎ……。


「春川さん、ベッドで寝ましょう」

「ううん。ここがいい、渚くんのそばがいい…………」

「…………」


 さりげなく俺の肩に頭を乗せる春川さん。

 そして……、俺もそのまま寝落ちしてしまった。天気のいい、日曜日だったから。


「…………そんなに仲がいいくせに、なんで付き合わないんだ? マジで、理解できない」


 数時間後、家に帰ってきた凛花がため息をつく。


「二人とも、床で寝ると風邪ひくよ」

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