15 休日、姉ちゃんと②
カフェを出た後、俺を近所にあるショッピングモールに連れて行く姉ちゃん。
どうやら、目的はショッピングだったらしい。荷物を持つ人も必要だからな。
てか、ここメンズ服屋だけど……?
「姉ちゃん、誰の服買うの?」
「渚の服に決まってるんでしょ? 私が男の服着るわけないじゃん」
「あ……そっか? えっ? なんで?」
「こうやって私が連れて行かないと、絶対服買わないから。それに、渚も高校生だから服くらい自分で選んでみれば? デートの時に備えてね」
そう言われても……、何を着たらいいのかよく分からない。
センスもないし……、いつも家で家事をしている俺が外出をしても買い物や学校くらいだから。けっこう難しい問題だった。ファッションというのは。
でも、デート……か。
この前に春川さんと夏祭り行ってきたから、少しは期待していた。また……、あんなチャンスが来るんじゃないのかなと……。そして、なるべくカッコいい姿を見せたいのもある。
弟じゃなくて、男。
できるかな……?
「渚? 変な妄想をする暇があったら、この服着てみて」
「あっ、う、うん」
早い、いつそんなに持ってきたんだろう。
やっぱり、センスがいいな。
「ど、どうかな? 似合う?」
「…………じっとして」
「えっ?」
外で待っていた姉ちゃんが、さりげなく俺の前髪を後ろに流す。
うわぁ……、顔が近い。
「いいね。渚は私の弟だから、何でも似合う。当たり前のことだけど」
「…………あ、ありがと……」
「次、これ」
「うん……」
無表情で俺を見つめる姉ちゃん、服は難しくてよく分からないけど……。
姉ちゃんが選んでくれた服を着てみたら、思わず「お!」と言ってしまう。なんっていうか、デートをする時によく着そうなそんな服だった。シンプルでいい感じ。そして……「似合う」とか、初めて言われた。
今日の姉ちゃん、ちょっと優しいかも。
いや、今朝ネギで殴られた時点で優しいは…………。あはは……。
「着替えた」
「うん。似合う」
「えっと、姉ちゃん。俺さ……服こんなにいらないよ。さっきの気に入ったから、あれにする」
「全部買ってやるから口出しすんな。次」
「はい。ありがとうございます」
そうやって、俺の服ばっかり買ってしまった。
いきなり春川さんのことどう思うとか、ショッピングとか、どうしたんだろう。
それに、姉ちゃんにそんなことを言われたら……、春川さんのことを意識してしまう。今頃、家で何をしてるんだろうとまた春川さんのことを思い出す俺だった。大学生だから心配しなくてもいいのに、なぜ心配になるんだろう。よく分からない。
それが悪い癖って知っていても、いつもそうなる俺だった。
「ありがとございまーす!」
……
「あ、ありがとう。服、たくさん買ってくれて」
「いいよ。普段からご飯作ったり、洗濯してくれたりするから」
「う、うん……」
「もし」
「うん?」
帰り道、前で歩いていた姉ちゃんが急に立ち止まる。
そして、振り向いた姉ちゃんがじっと俺を見つめていた。
「ど、どうした……?」
「もし、愛莉に何かあったら。渚が愛莉のそばにいてあげて、それくらいできるんでしょ? 男だし、いつも家にいるから」
「まあ、それは問題ないと思う。どうした? 春川さんに何かあったのか?」
「別に? ただ、私にできないことを渚ならできるから。今はこれしか言えない。後は渚の頭で考えてみて」
「ええ……」
すると、春川さんからラ〇ンが来る。
その内容は……「いつ帰ってくるの? 寂しい!! 早く、ゲームしよう!! 渚くん」だった。今更だけど、俺……ずっと家にいたよな。ほとんどの時間を家で過ごして、春川さんが出かけても俺はずっと家にいた。こうやって姉ちゃんと出かけるのも久しぶりだし、春川さん……誰もいない家は初めてかもしれない。
それにすぐこんな風にラ〇ンを送るなんて、超可愛い!!
本当に大学生なのかよぉ……。これは、どう見ても妹だ。可愛い妹。
「誰?」
「あっ、春川さんだよ」
「そう?」
「うん」
「じゃあ、急がないと。愛莉、寂しがり屋だから」
「えっ? そうなの?」
「うん。まあ、渚はいつも家にいるから、知らないのも無理ではない。ちゃんと覚えておいて、愛莉は寂しがり屋ってことを」
「分かった。でも、そう見えないけど……」
「女の子はそんなこと言わないよ。バカ……」
「ああ……」
そうだったのか……。
いつも振り回されるだけだったから、全然知らなかった。
俺はすぐ春川さんに返事をして、姉ちゃんと家に帰る。
「…………」
てか、春川さんの返事めっちゃ早いんだけど……?
……
「あ! 二人とも、おそーい! あれ? 凛花は?」
「姉ちゃんなら急に買いたい本ができてすぐ本屋に行きました」
「へえ、そうなんだ。楽しかった? 凛花と」
「えっ? まあまあでした」
「私は……一人だったから、全然楽しくなかったよ」
「はい……」
一人で寂しかったのかな、ぶつぶつ何か言ってるけど……聞き取れなかった。
こんな時は子供みたいで可愛いな。
まあ、俺も春川さんといたかったし……。
「あ、そうえいば! 新しいゲーム買いましたか?」
「そうそう! 買ったよ! やる?」
「はい!」
「よっし、行こう〜!」
「今度は負けませんよ!」
「ふふふっ、私は強いからね〜。負けなーい!」
姉ちゃんに買ってもらった服を部屋に置いて、すぐ春川さんとゲームを始めた。今日姉ちゃんにいろいろ言われて、少し気になることもあったけど……、今はこうやって春川さんのそばでゲームをするだけ。深く考えないようにした。
春川さんに何があったのかは分からない。
それを聞くのも多分……無理だと思う。
でも、そばにいてあげることなら俺にもできる。
「よっし! 勝った!」
「後ろから爆弾を投げるのは反則ですよぉ———!」
「ふふふっ、油断したね〜。渚くん」
「負けたぁ———!」
「もう一回やろう! 私に勝ったら頬にキスしてあげる! どー!」
「…………まさか、俺が勝てないと思ってわざとぉー! いいですよ。もう一回やりましょう! 俺の本当の実力を見せてあげます!」
「うん!」
シンプルに負けた。
マジか、俺。
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