14 休日、姉ちゃんと
なんか、俺……日曜日の朝からめっちゃ殴られてるような気がするけど……。
目を開けたら、すぐそばにネギを持っている姉ちゃんがいた。それ……この前に春川さんがたくさん買ってきたネギ……。どっからそんなの持ってきたんだ。その前にうちにまだネギが残ってたのか? 三人でそんなに食べたのに……、めっちゃ新鮮なネギを持っている姉ちゃんだった。
てか、ネギで弟を起こす姉ちゃんか……何でネギだ。
「なんだよ……。朝から」
「起きて、今日は私とデートしよう」
「朝から変なこと言わないで、姉ちゃん」
ポンと、ネギで頭を叩く姉ちゃんが俺を急かす。
なんだろう、何かあったのかな。
「あれ? 二人どこ行くの? 朝から」
「愛莉、今日は渚と実家に行ってくるから留守番よろしく」
「そうなんだ〜。うん! いってらっしゃい!」
「…………」
実家……? 俺にはデートって言った気がするけど……? 実家に行くのか?
まあ、姉ちゃんらしい。
「そういえば、二人で出かけるのは久しぶりだね。渚」
「そうだね。でも、いきなりどうした? 週末はいつも部屋でのんび———」
「りするわけないでしょ? 今日は話したいことがあるから、まずはカフェに行こうか」
「あっ、うん」
……
姉ちゃんと一緒にカフェ……、本当に何かあったのか?
そうじゃないと、あの姉ちゃんが俺とカフェとか行くわけないだろ。
今更だけど、俺の中で姉ちゃんはどんなイメージだろう。朝から……慣れてないことばかりだ。
「何飲む? オレンジスムージー?」
「俺は! アイスアメリカーノ!」
「…………オレンジスムージーにしよう」
「えっ! なんでだよ! 俺も大人だから!」
「それと大人と何の関係があるの……? 渚、苦いの飲まないくせに……」
「…………」
恥ずかしくて、オレンジスムージーを飲むことにした。
「夏祭りは楽しかったの? 渚。二人のプロフ見たよ」
「あっ、うん。それより……、二人で撮った写真をプロフにした後、クラスメイトたちからたくさんのラ〇ンが来て……面倒臭い」
「ふーん。人気者だね」
「ちげぇよ。どうせ、どんな関係なのかそんなことばかり聞くから……通知オフにした」
「うん。気にしないで、あんの。そして、私が渚をここに連れてきたのは、渚の気持ちを確かめるためだよ」
「気持ち? 俺の?」
「そうよ」
「何の話?」
「愛莉のこと、どう思ってんの?」
いきなり……春川さんのことどう思うって。もちろん、好きだよ。
でも、俺はすぐ答えられなかった。この気持ちを……姉ちゃんに言ってもいいのか分からない。そして、春川さんは俺のことを弟だと思ってるはずだから……。好きとか……、そんなことを言ってしまうと姉ちゃんも困ると思う。
だから、はっきりと言えなかった。
「うん。いい人だと思う」
「はあ? それだけ?」
「えっ? すごくいい人だと思う」
「マジか、渚」
「姉ちゃん、何が言いたんだ?」
「てっきり、好きとか……言うと思ってたけど。本当にそれだけ?」
「好きか……。俺はさ、春川さんと似合わないと思う。でも、俺たち仲がいいから、そんな勘違いをするのも無理ではない」
「そう?」
「うん。そんな感情、持ってはいけない」
俺はまだ高校時代の春川さんを忘れていない。
女子経験の少ない俺だけど、これだけはちゃんと知っている。好意と好きを勘違いしてはいけない。春川さんは男のことあまり好きじゃないけど……、俺には優しくしてくれる。それは俺が姉ちゃんの弟だからだ……。
要するに、姉ちゃんの存在が俺を保証してくれるってこと。
なのに、俺は……勝手にドキドキして……。そんなことを言ってもいいのか? 姉ちゃんに……。分からない。
好きとか、そんなことを言い出したら……もうそこにいられないよ。
いくら姉ちゃんが大丈夫って言っても、今の関係が壊れてしまう。
だから、否定した。
「はあ……、二人とも……マジでバカみたい」
「な、何の話?」
「あっ、凛花じゃん」
その時、後ろから知らない女性の声が聞こえてきた。
め、めっちゃ美人じゃん……。誰だろう、姉ちゃんの知り合い?
「朝比奈先輩……? どうして、ここに? あっ、彼氏と一緒ですね」
「そうだよ。じゃんけん負けたからね、連夜くん」
「おい、柳……マジかよ。あんたいつ勝つの?」
「聞くな……。俺……今日で15連敗だから。てか、望月って……彼氏いたのか?」
「なんだよ。喧嘩売ってんのか? こいつは弟だ」
「えっ? マジ? 望月の弟? ええ…………」
「は、初めまして。望月渚です」
「おう、よろしく」
男の方もめっちゃカッコいい……、やっぱりあんな美人と付き合う男はすごいイケメンだな。顔は大事ってことを再び実感した。二人だけ……別の世界に住んでるような気がする。高校生の俺とは全然違って、ちらっと二人の方を見ていた。
俺も、あの人みたいにカッコよくなりたいな……と。
そして、柳さんが俺の背中を叩く。
「頑張れ……。望月の……弟よ」
「おい、柳。あんた早く飲み物買いに行けぇ! 邪魔すんなよ!」
「あははっ、ごめんごめん。じゃあ、俺は行くから」
「またね。凛花〜」
「はい、先輩」
なんか、嵐みたいな人だった……。
「見たか? 渚」
「な、何を?」
「あの二人、どう思う?」
「まあ、お似合いだと思う」
「彼氏の方、柳連夜って呼ぶけど、あいつ……渚と同じ性格だからたまにムカつく」
「姉ちゃん……。俺、何もしてないよ……?」
「あいつも高校生の時、はっきりと言えないバカだったから。今の渚と一緒だ」
「なんで、そんなこと知ってんの?」
「先輩に聞いたから」
マジか……。
「一緒に夏祭りも行ったし、二人で撮った写真をプロフにしたし、もっと勇気を出してみろ。渚」
「姉ちゃんは……、俺と春川さんを応援してくれるの?」
「うん。渚、男はね……。たまには女の子をドキッとさせる必要がある。分かる?」
「いや、全然分かんない」
「…………」
ドキッとするのはいつも俺だったから、そんなことできるわけねぇだろ。
姉ちゃんは男の気持ちなんか全然分かっていない。
「あんた、あの柳とそっくりで本当にムカつく」
「え!? 俺、何もしてないよ?」
「まったく……」
よく分からないけど、俺の頬をつねる姉ちゃんだった。
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