11 凛花のことが羨ましい

 渚くんと同居するのはいいけど、最近……凛花のことがめっちゃ羨ましい。

 ついこの間まで……、酔っ払った凛花にお姫様抱っことかぁ……。自分のお姉ちゃんをあんな風に持ち上げるなんて、優しすぎる。この家に来てから……私の方がもっと渚くんと長い時間を過ごしたのに……、私にはあんなことやってくれない。ちょっとだけでもいいから、私もお姫様抱っことか……されたい!


 そんな妄想をしながら、布団の中で足をバタバタする私だった。


「愛莉、ちょっとヘアアイロン貸し……」


 そして、それを凛花にバレてしまう。


「愛莉……、何してるの?」

「い、いや! わ、私は…………!」

「ごめん……。ヘアアイロンはいらないから、邪魔してごめんね」

「ち、ちがーう!」


 凛花は……私と違う。カッコいいし、強い。

 そんな凛花がとても羨ましくて、高校生の時には私も凛花みたいな強い女の子になりたかった。男に告られても「お前に興味ねぇよ!」って堂々と言えるそんな女の子にね。もちろん、私は凛花と違ってそれはダメだったけど、そんな凛花と友達になってすごく嬉しかった。


 人生で一番つらかった時に、凛花がそばにいてくれて……それを克服した。

 だから、私は凛花に勝てない。


「どうした? 愛莉、最近変だよ」

「そ、そんなことないよ! 私は……」

「で、愛莉……。最近、渚とくっつきすぎじゃね?」

「えっ! そ、そうかな……? へへっ……、渚くんはいつも私のそばにいてくれるから……。もし、嫌だったら! すぐやめるからね!」

「いや、別に気にしなくてもいいけど……。渚……、まだ気づいてないの?」

「うん。私も……渚くんにはそんなこと言わないから」

「まったく……、二人とも何してんの?」

「へへっ……」


 私も……、私のこと少しは可愛いと思うけど。

 あの凛花が渚くんのお姉ちゃんだからね……。それにずっと凛花を見てきた渚くんだから、私みたいな平凡な女は諦めるしかない。私より背も高いし、美人だし、カッコいいし、完璧すぎるよぉ! こんな人がこの世にいてもいいのって思ってしまうほど、凛花は完璧な女子だった。


 そして、弟の渚くんもめっちゃカッコいい。高校生のくせにね。


「そういえば、この前……酔っ払った私をベッドまで運んでくれたのは愛莉か?」

「あっ、それは……渚くんだよ」

「そっか」

「一体、どうしたの? 普段は全然飲まないじゃん……凛花」

「ああ。ちょっとしつこいやつがいてね、ストレスを受けたから。ビールを五本飲んでしまった…………」

「ええ、次は一緒に飲もう! 話聞いてあげるから」

「愛莉はダメ」

「なんで?」

「なんで?って、愛莉。この前一緒にビールを飲んだ時、あんた酔っ払って渚のベッドで寝てたんでしょ……?」

「そんなことがあったの?」

「あいつを起こせず愛莉を部屋に連れてきたのは私だったよ」

「ご、ごめん……。覚えてない」


 確かに……目を開けた時、目の前に渚くんがいてすごく嬉しかったけど。

 まさか、酔っ払った私がベッドに潜り込んだとは……。恥ずかしくて、絶対言えない。


「もう……、好きなら好きってはっきり言えば? 愛莉」

「…………でも、まだ……」

「そうだね。ごめん」

「い、いいよ! 私が……はっきり言えないだけだから…………。だから、いいよ」

「でも、渚はあんなことしないから心配しなくてもいいと思う。たまにアホみたいなことするけど、いいやつだからね。もし……、渚があいつと同じことをしたら私の手で半分殺してやるから。愛莉」

「あ、ありがと……」


 今の生活はすごく楽しい。

 すぐそばに私のことを気遣ってくれる二人がいて、あの時の悪い記憶を忘れることができる。そして……、高校時代からずっと男のことが怖かったけど、なんか渚くんだけは違った。初めて出会った時から、可愛いなと思っていたから……。


 今は高校生になって、背もあの時より伸びて……、カッコよくなったけど。

 あの可愛さだけはあの時のまま。

 すっごく好き。


「そういえば、夏祭り行くって言ったよね? 愛莉」

「あっ、うん! そうだけど? どうしたの?」

「一応……、聞いておくけど、いつ行くの?」

「それは……まだ聞いてない」

「え? 渚のやつ、まだ誘ってないの? あいつ私の弟なのに、そんなこともできないのか?」

「あっ。まだ時間あるからね、もうちょっと待ってみる!」

「ええ……。そう言われても、夏祭りまで二日しか残ってないよ……?」

「い、いいよ! 渚くんは……きっと誘ってくれるから!」

「…………」


 渚くんならきっとそうしてくれるとか、凛花にはそう言ったけど……。

 先に行こうって言ったのは私の方だから、私が渚くんに話すべきだ。ちゃんと知ってたけど、なぜか出てこない。私がいつも曖昧なことを言うから……、行くのか行かないのかはっきりと言わないから……、周りに迷惑をかけてしまう。


 それは私の欠点だった。

 凛花はなんでもはっきりと言えるのに、私はできない。

 渚くんが知らない女の子にラブレターをもらっても……、私は嫌ってはっきりと言えなかった。私にそんなことを言う資格はないから、何気なく渚くんをからかうだけだった。知らない女の子と付き合うのが嫌だったくせに、すぐそばにいるから……今はそれでいいと思っていた。


 バカみたい。


「普通に話してもいいよ。渚、そんなこと気にしないし。むしろ、愛莉に誘われたら喜ぶかもしれない。渚は単純だからね」

「そうかな……?」

「言いづらいなら、私が言ってあげようか? 渚に」

「いいよ! 勇気を出してみるから……、私できる! や、やってみるよ!」

「おお! いいね。愛莉。その調子だ」

「でも、まだ時間あるから、明日まで待ってみる!」

「…………」


 ずっとこんな性格だったから、いきなり凛花みたいになるのは無理だった。

 少しずつ……、少しずつね。


「もう……」

「へへっ、ごめんね。凛花」

「いいよ……」

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