7 ホラーが苦手な俺

「久しぶりの休日! 今日は三人で映画を観ましょう! どうですかぁ!」


 雨が降るある週末。今日は春川さんも姉ちゃんもバイトをしないから、特にやることもないそんな日だった。それよりこの前にもたくさん降ったのに、また大雨が降るなんて……。そのせいで朝から真っ暗になっていた。


「いいですね」

「いいね」


 そして、テレビをつける春川さん。


「で、何を観るの? 愛莉」

「そして、みんな殺されてしまったって!」


 みんなで観る映画って、ホラー映画だったのか!


「ああ、そっか。そのタイトル聞いたことあるよ」

「凛花、知ってたんだ! ふふふっ。私も面白そうで、購読しちゃったよ!」

「内容がずっと気になってたから、いいね。みんなで映画を観ながらゆっくりするのも悪くないと思う」


 よっし、二人が楽しく話している間に……こっそり部屋に入ろう。

 子供の頃からホラーが苦手だった俺には無理だ。

 あの春川さんがそばにいても、ホラーだけは絶対無理!!


「えへへっ、渚くん。どこ行くの?」

「なんだ。渚、逃げるのか?」

「…………」


 ……


「ねえねえ、渚くんはホラー苦手なの? えへへっ」

「まあ、渚こういうのあまり好きじゃないから」

「そうだったんだ……」


 二人に拉致されて、結局……二人の間でホラー映画を見ることになった。

 てか、二人とも……俺と腕を組む必要はあるのか? 春川さんも姉ちゃんも、俺を逃す気はなさそうだ。それに『そして、みんな殺されてしまった』は怖い殺人鬼がたくさん出るホラー映画だぞ……! 勘弁してくれぇ。


 あの暗い雰囲気とか、すぐ後ろから出てきそうな演出とか、マジで無理だ。


「あはははっ、渚くん。ホラー本当に苦手だったんだ」

「は、はい……。あ、あまり好きじゃないです」

「大丈夫。これはただの映画だからね」

「は、はい……」

「それでも怖いなら、私のこと後ろから抱きしめて。ふふふっ、今日だけだよ?」

「えっ!」


 そう言いながら、股の間に座る春川さん……。

 いや、その前に……。姉ちゃんがすぐそばにいるのに、そんなことをしてもいいんですか? 春川さんは姉ちゃんの友達だから……、姉ちゃんがどう考えているのかすごく気になる。それに抱きしめてって言われても、そんなことできるわけないし、後ろで静かに映画を観るだけだった。


 ぼとぼと……、血が落ちる音がする。

 後ろから現れた殺人鬼に、すぐ殺される主人公の友達。

 それを見て、俺はすぐ目を閉じた。


「…………」

「キャー! こわーい!」

「———っ!」


 なんか、重っ!

 そして目を開けた時、振り向いた春川さんが俺にくっついていた。

 両腕で俺をギュッと抱きしめて、頭を俺の肩に乗せて、そのままテレビの方を見ている。くっつきすぎじゃないのかと思っていたけど、殺人鬼の姿が怖すぎて何も言えない俺だった。


 それに、そばにいる姉ちゃんも俺の肩に頭を乗せる。

 どういう状況?!


「ね、姉ちゃん……?」

「うるさい、映画観ろ」

「は、はい……」

 

 てか、映画を観るために持ってきたポップコーンやジュースに手が届かないけど。

 さっきから、二人ともくっつきすぎじゃん!


「手、届かないんでしょ? 食べさせてあげる。あーん」

「い、いいですよ」

「ふふっ、遠慮しなくてもいいよ。あーん」


 キャラメルポップコーンを食べさせる春川さん。

 そして———。


「はい、ジュース。今肝心なところだから、早く飲んで」

「あ、ありがとう。姉ちゃん……」


 アップルジュースを飲ませてくれる姉ちゃん。

 てか、二人が離れてくれたら……俺も普通に食べられると思うけど?


「へえ……、そんなことで殺人鬼になるの? 怖い……」

「他人に無視されるのはやっぱりつらいね……」

「そうね……」


 さっきから俺の体を抱きしめてる春川さんとそばで俺の腕を抱きしめる姉ちゃん。

 あの……こっちもすごくつらいんですけど……。


「あーん」

「い、いいですよ。春川さん! 子供じゃあるまいし!」

「子供だよ? 私には分かる!」

「えっ? ど、どうしてですか?」

「体、ずっと震えてたじゃん」

「…………」

「渚……、あんたいつ男になるの?」

「ごめん……」


 そのまま映画が終わるまでじっとした。

 やっぱり、人が殺される映画は苦手だな……。血もたくさん出てくるし、雰囲気も怖いし。でも、二人と観てるからか……昔よりは怖くないような気がする。気のせいだと思うけど……。


「ああ、面白かった! やっぱり、雨の日はホラー映画だね!」

「そうだね。私はちょっと部屋に行ってくるから」

「うん! それに、渚くんめっちゃ温かったし〜。気持ちよかった〜」

「俺は……大型犬ですか……」

「ふふっ、私ね。渚くんがいて全然怖くなかったよ?」

「へえ……」


 そして、雷がピカッと光る。

 それと同時に春川さんが俺を抱きしめた。


「渚くん! 私の耳塞いで!」

「えっ?」

「早く! 時間がない!」

「は、はい!」


 なんだろうと思いながら、手のひらで春川さんの耳を塞いだ。

 すると、雷のうるさい音が聞こえてくる。

 そして、ギュッと俺を抱きしめる春川さん。ホラー映画を観る時は普通に観てたのに、今はめっちゃ震えている。もしかして、雷が苦手……? そんなことあるのか? さっきまで殺人鬼が出るホラー映画を観てたのに、それより雷の方がもっと怖いってことか? 普通に可愛い……。


 可愛すぎる。


「うっ……! あの音は嫌だぁ……」

「へえ……、大丈夫ですよ」

「そ、そう? ご、ごめんね……。私、雷とか全然怖くないけど…………。あの音が苦手なだけで……、えっと……」

「ぷっ」

「な、なんで笑うの?」

「なんでもないです〜」

「…………そう?」


 それより……、近い。

 目の前に春川さんの顔がぁ……、可愛い!


「渚、いつまで愛莉とくっつくつもり?」

「あっ! す、すみません。春川さん!」

「えへへ……。私、渚くんのおかげで全然怖くなったから! ありがと〜」

「は、はい……」


 いろいろ……やばかったな。

 てか、俺……あの春川さんに抱きしめられたのか? マジかぁ!


「凛花! 私アイス食べたーい!」

「オッケー」

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