全てを破壊するバッファローの群れと大谷翔平

筆開紙閉

九回裏逆転満塁ホームラン

 ある日、森の中の丸太小屋に一台の黒塗りの高級車がやって来た。


大谷オータニさん、人類の命運がかかっているんですお願いします」


 高級車から降りてきた者たちは合衆国のエージェントのようだった。

 森の中の丸太小屋には大谷翔平という男が居た。大谷翔平の巨体と重量に耐えられる椅子は現在地球上に存在しないため、彼は特注のベッドに腰掛けている。上半身に着衣はなく、つまりは半裸だった。

 赤熱した鋼のような筋肉からは常に湯気が上がり、飼い犬も大谷翔平の筋肉熱を避け、やや離れたところにいる。飼い犬は子犬のようにエージェントの目から見えた。だがそれは大谷翔平の存在感によって相対的に小さく見えていただけだったのだ。言わば相対的にちっちゃい犬である。

 大谷翔平はそこに存在するだけで気温が上がり、真冬である今もストーブの必要がなかった。

 大谷翔平はオファーを快く受けた。





 ここで現在の地球の状況を振り返ろう。

 全てを破壊するバッファローの群れにより地球上の半分が更地になった。

 バッファローの進路に存在する遍くものは原子レベルで分解され、砂や灰のようなものに変化した。とある核保有国が隣国を通過中の全てを破壊するバッファローの群れに核兵器を使用したが、それは効かなかった。

 核攻撃により数頭までに数を減らしたバッファローの群れは数秒後には、元の頭数に戻っていた。衛星からの撮影によればバッファローの群れは一万頭ちょうどの数を維持しているようだった。

 バッファローの群れの侵攻に人類は無力だった。だが、大谷翔平ならば?

 合衆国大統領は大谷翔平を探し出し、バッファローの群れと戦わせるように指示を出した。冒頭に戻る。





 米軍の保有する輸送機から木製バットを持った大谷翔平がパラシュート降下を行った。この木製バットは木製バット職人の手作りである。この木の下でから告白したものは永遠に幸せになるという伝説の樹から削り出した特注品だ。

 大谷翔平は既に避難が完了し無人となった東京に降り立った。大谷翔平はバットを軽く素振りする。朽ち果てたビルはその風圧で倒壊した。大谷翔平は本調子からは程遠い様子であった。

 バッファローの群れは三分後には大谷翔平の目の前に迫る。

 果たして生き残るのはバッファローの群れか、人類か。




 遥か遠い未来。

 大谷翔平もバッファローも地球も全てが歴史の教科書上の出来事になった未来。


「爺、大谷翔平伝説の続きは?」


 地球から百億光年離れた場所に建造されたスペースコロニーの内部にある公園の一角で短パンのガキが尋ねた。


「大谷翔平がバッファローの群れでホームランを打って人類を救ったんだろ。知らんけど」


 パツパツのジャージを着た爺は伝説の樹を使ったバットを振り回しながらそう言った。木製バットにはバッファローの血が今もこびりついている。

 

 

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