12 妹萌えもおいしくいただきます
未だどこか呆然としたシャルロットの手を引き、客間まで辿り着く。
扉の前に立てば、何やら言い争い――とまではいかないが、言い合いをしているのが聞こえる。
いわく、娘さんをうちの王の養女にしたいのですが、いや、娘ならこっちの二人がいるでしょなんで妾腹の娘なんですの……とまあ、そういう押し問答を繰り広げているのだ。
(お~~、揉めてる揉めてる……)
しかし頑張るな、夫人も。普通公爵に直接訪れてもらって「いいよね?」って言われれば、中級貴族は一も二もなく頷くもんだろうに。なんという面の皮の厚さ。
「あの子は卑しい平民の娘なのですよ! それを……月の女神の血族に招き入れると仰るのですか⁉」
夫人の金切り声に、びくりとシャルロットが肩を揺らす。俺はその肩をぽんと叩くと彼女に笑いかけた。
……大丈夫、ここにいる、怖くない。
そして、息を吸う。
「――そう言いました、夫人」
「ッ、いきなり誰なの、無礼者……って、え⁉」
ノックなしに扉を開け放ち、顔が見えた夫人とその娘たち二人。
怒りの形相でこちらを向いた夫人は、俺の顔を見て愕然とした表情になった――当然だ。貴族で、俺の顔を知らない者はいない。
「ディアナ王女、殿下……!」
「ええそうよ、初めてお会いするわね、伯爵夫人。……ああちなみに、閣下の仰った、後から来る客人とはわたしのことです。ごめんなさいね、ご挨拶もなしに、屋敷に入ってしまいました。わたしの義妹となる子に先にご挨拶をしたかったの。ほら、同行していただいているわ」
「なっ……しゃ、シャルロット⁉ お前、どうして王女殿下と……!」
夫人はワナワナと震えているが、シャルロットはシャルロットで、王女!? 義妹!? と、目を白黒させている。
「こ、困ります王女殿下、いらっしゃるなら先に言っていただきませんと、わたくしどもは王族の方をお迎えするに相応しい準備が……」
「あら、それはごめんなさいね。準備をする時間を与えていたら、王が娘にと望む少女を虐待したという痕跡をうまく隠せたのかしら」
夫人の顔が一気に青ざめた。
そうだ、もっと慌てろ、恐れろ。俺は別に出来た人間じゃないが、子どもを虐待するようなクズを見ればさすがに義憤に駆られる。
――存分に心胆寒からしめてやる。
「夫人。わたしと、そして陛下はね、もしもあなたたちが、シャルロットのことが大切で仕方なくて家族でなくなるのが辛いと言うなら、事情を考慮するつもりだったのよ。……でも、どうせ王の養女にするなら長女か次女を、と仰ったところを見ると、そうではないようね」
「でっ、殿下……」
「この子はわたしの家族にします。あなたたちが慈しまないなら、わたしが彼女を慈しみます。もしまだ不満があるなら仰って。――国王陛下のお許しを得た養子縁組のお話に文句を言えるなら、ですけれど」
にっこりと微笑む。
そして、背後のシャルロットを振り返って、問うた。
「改めまして、わたしはディアナ、この国の王女よ。
……シャルロット、わたしの妹になってくれる?」
すると。
シャルロットは、大きな目をこぼれ落ちそうなくらいに見張ってから、「はい、お義姉さま」と、潤んだ瞳でそう言った。
そしてそれを見て俺は、
――
軽率に萌えてしまった。
俺は妹萌えも嗜むオタクだったからだ。
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