リベンジするなら来年で
「美味しいよ。ビスコッティ」
「なんと、そちらはパウンドケーキだったものです」
アーモンドが練りこまれた、顎に力を入れないと割れない洋菓子。OPP袋には、残り二切れの「パウンドケーキ」が収められている。
「断面の目が詰まってて、生焼けだったんだ」
「ああ。竹串だと、あれは分からないよね」
私がコーヒーを注いだ、お揃いのマグカップ。その脇には、ギンガムチェックの青いリボンが横たわっている。手作りのお返しをねだったのは、一ヶ月前のことだった。
「だから、レンジで火を通したんだけど」
「水分が飛んだ?」
ガリ、と、音を立てて砕く。顎関節症なら、厳しい戦いを強いられたことだろう。
「ごめん! 作り直す!」
「あはは、気にしないで」
「でも」
眉根を下げる彼は、叱られた仔犬のようで可愛らしい。ただ、気負わせ続けるのも忍びない。仕方がないので、コーヒーに献上物の一端を浸してから、薄い唇に咥えさせた。
「ほら。美味しいね」
ビスコッティとしては定番の作法で、一口振る舞う。静かになった彼は、目を丸くしたまま咀嚼した。
「勝手に凹むなんて、生意気だよ」
微笑みかければ、恋人の頬は朱に染まる。強張りがほどけたのは、菓子と彼の両方だった。
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