春の楽しみ
日の出前。スコップに右足をかけ、体重を乗せる。ややあって掘り出された竹の根元からは、とうが立つ前の筍が顔を覗かせた。
「持つべきものは地主の友達だなぁ」
「おだてても、採っていい本数は増えんぞ」
地下茎から切り離されたばかりの筍は、夜間に親竹を経由して吸った養分で満ちている。
「ケチ! せっかく美味いのにぃ」
「まあ、ここいらのは特別だしな」
「やっぱ炊く?」
「肉屋で肉買って、青椒肉絲はどうだ」
「酒に合うー!」
ウインドブレーカーのポケットに春の味覚を捩じ込んだ男は、不織布マスクをつけたもう一人の隣に並んだ。
「楽しい晩酌のためにも、さくっとお仕事終わらせますかぁ」
二人の足元には、マスクの男に掘り起こされた穴がある。深い底に溜まった死体のうち、昨年に投げ込んだ女のあばら骨が頭を出していて、怪物の牙のようにも見えた。
「よっ、と」
手足を縛られた、裸の女が落下する。土まみれの彼女は、噛んだ布の下で何事かを呻いていたけれども、それを聞くのは二人の義務ではない。
元通りに蓋をして、小山になっていた土をかけ直す。ぺん、とスコップの裏で叩いた地面からは、悲鳴の一つも聞こえてこなかった。
「ビールも買い足そ」
「はいはい」
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