波風を立てないで
「ここに、とあるチケットが二枚ある。週末に予定がなければ、付き合ってくれないか」
夕暮れが訪れた窓辺にて、二歳年上の先輩が掲げたのは、ダマスク柄の青い封筒だった。生徒会室として機能する、歴史ある校舎の一角に、他の生徒は誰もいない。
「ケーキセット付き、一時間のクルージングだ」
「随分、小洒落たチケットですね」
「貰い物のギフトカタログから、妹が選んだんだが。肝心の日程が、好きなアイドルのツアーと被ったらしい」
要するに、難破したチケットを無駄にするのは忍びないというのが、彼の言い分だ。
「では、副会長を誘ったらいかがです? 受験勉強の息抜きにもなるでしょう」
今年度の会長と副会長は、美男美女で有名だ。付き合っているのではという噂も、まことしやかに囁かれている。副会長は満更でもない様子で、正直、癪に障る。
「俺が誘っているのは、君だ」
だから、そういう、思わせぶりな態度がいけないのだ。きっと、誰にでもそうやって口説くような真似をするから、相手が勘違いをするのだろう。
「……予定はありませんけど」
でも。彼の言動で簡単に揺れる、自らの淡い気持ちから目を逸らしていることの方が、もっと深刻な問題だとも分かっていた。
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