第14話

病院のあと、藤井弁護士と共に書類を揃えて一番近い家庭裁判所へ向かう。

うちから行くより病院から行った方が近かったし、シラノが早く申請する事を望んだことも大きかった。

完成させた書類を封書に詰めて担当者に手渡しすると「2週間ほど審査の時間をいただきます」という話になった。

その2週間は俺に覚悟を完了させるのに必要な時間であった。

シラノが選んだ人生に俺もまた最後まで巻き込まれる事を選んだのだ、今更逃げることは到底できない。

2週間後、家庭裁判所から呼び出しが来た。

俺も関係者として出頭する事になったので裁判所まで乗せていった時だった。

「タモツ、一緒に巻き込まれてくれてありがとう」

「それは就籍出来てからにしろよ」

当然ながら、シラノの就籍はスムーズにはいかなかった。

4ヶ月に渡り二週間おきに家裁に呼び出されたと思えば最終的に裁定不可と判断され、今度は水戸の地裁へと呼ばれる事になった。

水戸地裁まで行くとシラノの件は幾つかのメディアに取り上げられた。

しかし危惧していた程大騒ぎにならず、せいぜい地方紙やスポーツ紙や傍聴マニアを賑わせる程度だった。

異世界人という突飛すぎる案件は世間の人々から本気で頭おかしい案件とされたのだろうし、俺としてはそれくらいで済んで良かったくらいであった。

最終的にはシラノが地球人ではない事を証明する遺伝子検査書類の正当性や日本で暮らす覚悟がある事などを勘案し、1年半かけてシラノの就籍は通った。


****


就籍決定に伴い、シラノは新しい名前を考える事になった。

日本で暮らす以上日本での生活に便利な名前が欲しいという話が出てきた。

「シラノは白野でいいと思うんだが苗字をどうしようかと思っているんだ」

裏紙に幾つかの名前の候補を書きつけるとふいに脳裏にある文字が思い浮び、思いついた新しい名前を紙に書きつける。


岩瀬白野


「イワセ……タモツのファミリーネームだな?」

「これで岩だらけの川の浅いところ踏み越えた先の白い野原という意味になる。お前の新しい名前としていいと思えないか」

シラノはふっと笑って「俺がタモツの家族になったみたいだ」とつぶやく。

「べつにいいよ」

この1年半で俺はこの男に巻き添えられる覚悟は出来上がっている。

「これからも俺と一緒に暮らそうぜ」

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会社を辞めて騎士団長を拾う あかべこ @akabeko_kanaha

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