第11話
翌朝。梅野ママの店のドラァグクイーン達が共同で暮らす家の客間で目を覚ました俺は時刻を確認する。
「7時過ぎならぼちぼち帰ってくるか……?」
舞台の後はいつもこの店のドラァグ達が共同で暮らす家の客間で一夜を過ごしている。
朝帰り上等始発で帰宅が普通の他のドラァグ達と違い、終電の時刻を過ぎると眠くてしょうがなくなる昼型体質なのでいつも12時すぎには店を出るのだが帰宅が億劫でいつもここに泊めてもらっていた。
隣には客間の布団に身体が入り切らないシラノがすやすやと眠っていて、いつも俺より早く起きてるシラノがまだ寝てるのは慣れない場所故の疲れもあるのだろう。
(……改めて見るとこいつって男前の部類なんだよなあ)
思わずそんな感想が思い浮かぶ程度には綺麗な寝顔をしていた。
一緒に暮らしてはいるけど寝室別だからあんまり見慣れていないので、こうまじまじと見る機会が無いのだ。
「そうだ、メシつくんなきゃ」
ここに泊めてもらった時はお礼も兼ねていつも朝食(夜型生活の彼らには夕飯だが)を拵えるようにしている。
米は早炊きモードで炊き上げ、冷蔵庫に残った野菜と冷凍焼けした肉で豚汁を作り、賞味期限が今日までの卵と麺つゆで出汁巻きを作る。
「ただいまぁ」
「おかえりー」
もうすぐ米が炊けるというタイミングでぞろぞろと仕事終わりの遊びを終えた住人達が帰宅してくる。
派手な女装を剥がして普通の兄ちゃんやおっさんに戻った彼らは「シラノくんはー?」と聞いてくるので「まだ寝てた」と軽く答える。
女装を解いて普通のおっさんになった梅野ママが「ご飯あとどのくらい?」と聞いてくる。
「蒸らし込みで15分ぐらいですかね」
「じゃーアンタたちシラノくん起こすのはご飯出来てからにしなさいよ、それまでお触り厳禁だから!」
はーい!と答えた男達がシラノのいる客間に忍び込む。
しかし5分もしないうちに客間から「うわぁ!」「痛!」という悲鳴が上がり、様子を見に行くとシラノがこの家の男達を投げ飛ばしていた。
「何やってんだよ」
「タモツ!ここにいるのは……?」
「全員昨日出会ったドラァグクイーンが女装を解いた姿だ。別人に見えるだろうが全員昨日会ってるからな?」
「そうだったのか……起きたら枕元に見知らぬ男が沢山いたから、つい身を守ろうとして手が出てしまった」
全員にしっかり詫びを入れさせ、怪我をしてない事を確認した頃には朝食も出来上がっていた。
****
朝食の後は勉強のため都内各所を車で巡ることになった。
マジックグッズ専門店や大道芸を見学したり、色んな商業施設を見学したり、夕方以降には都内の大きな繁華街やショーパブなども見て回った。
夜の首都高に入って東京タワーを見ながらの帰り道のことだった。
「この国は賑やかで迷路のように複雑だが、俺のいた街よりもみんなが自由に生きている感じがする」
「自由?」
「どんな派手な服を着ても、どんな体に生まれ付いても、どんな人を愛しても掴まることなく生きられる」
「まあ逮捕はされないな。世間の目とか社会の仕組みとか追いついてない部分はあるけど、少なくとも逮捕されたりそれで死ぬことはないか」
シラノはこの国でどんなふうに生きるのだろう。
俺はふとそれを最後まで見守りたいと不意に思った。
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