第9話

※この回ではホモ/オカマという表現が多用されますが差別的意図はありません。


新宿2丁目という場所は鉄道の駅が遠くてバス停も少なく、アクセスがあまり良くない。そのアクセスの悪さはゲイタウンとして知らない人が迷い込む事を防ぐためなのだ、と俺は勝手に思っている。

花園通りに並行した細い路地を抜けて地下駐車場兼物置に入ると「地下に随分と広い空間があるんだな」と感心してくる。

「これはあくまで車を止めるためのスペースだけどな、目的の店はここの1階になる」

このビルは5階建てで1階から5階まで全てゲイ向けの店舗で通称ホモビルなどと呼ばれるなかなか2丁目らしいビルだったりする。

「こんばんばー

「あら、久しぶりねー!元気にしてたー?」

ドラァグクイーンらしい華やかなドレスとド派手メイクに身を包んだ店のママや店子たちが俺に声をかけてくる。

店の中も開店前でありながらそのド派手さに負けない明るさと鮮やかな彩りに包まれている。

その中でもいっとう飛び抜けているのが蛍光ピンクのロングドレスを纏ってゴールドの髪を結い上げた、この店のオーナーでありママでもある梅野さんだろう。

「梅野ママ、紹介すんね。こいつがシラノ」

「アラ、本当にイケメンなのねぇ~」

ふふふっと楽しそうに梅野ママが笑い、他のドラァグたちもイケメンよ!なかなかいい男ねー!と楽しそうに喋りだす。

当のシラノはド派手なオカマ達の圧に気圧されて唖然としていたので「挨拶!」と俺に小突かれてようやく「よろしくお願いします」と挨拶を口にした。

「ママには話したと思うけどこいつ今記憶喪失でね、色々勉強してる途中だし体も不自由してるから出来るだけ優しくしてやってな」

ここにいるメンバーは見た目こそ派手だが、中身はちゃんとしてるし言えば分かってくれる。

「じゃ、俺メイクしてくるから梅野ママよろしく」

「俺を置いてくのか?!」

シラノを梅野ママに預けようとすると、シラノが不安そうに俺を見る。

「大丈夫、取って食いはしないよ。たぶん」

「たぶんって何だ?!」


****


衣装とメイクを終わらせると、シラノは梅野ママの横に座りながらグラスを磨いていた。

「タモツ」

「この格好してる時はミセスヨザクラって名乗ってるんだけどな。にしてもちゃんと磨けてるな」

「周りが掃除や準備をしてるのに何もしていないと落ち着かないし、色々話しかけられてな……」

それでグラス磨きを任せたのだろう。

俺もそのグラス磨きを手伝いながら一人一人の役割や開店準備で何をしてるのか?などを説明していく。

しばらくしていると店の外に人が並び始め、そろそろ開店時間が近いことを知らせてくる。


「じゃ、そろそろ時間よ!」

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