第7話
病院での出来事の後、シラノは魔法を披露して日銭を稼ぐことを決意した。
足が不自由で戸籍もない現状では就職も出来ないし、まずは多少なりとも日銭を稼いで自分の食費や通院費の足しに出来ればいいと割り切ることにしたようだ。
義足が出来て仮戸籍の取得が出来たらお金を貯めて車や狩猟の免許も取りたいという。
「それで相談なのだが、手品師というものはある程度衣装が必要だろう?それで……」
「あー、衣装な」
シラノがここに来てから衣服は俺の方で作ってやっていた。
趣味で作る衣装のついでだと思えば大した手間ではないから、別に文句はなかった。
「さすがにタキシードやスーツは無理だぞ」
「でも趣味で衣装を作ってるんじゃなかったか?」
趣味の衣装づくりを行う作業部屋は階段を上った二階にあり、不自由な脚では作業部屋まで行くのは難しい。
呼ばれてもいないのにわざわざ不自由な体で二階まで登ろうという気にはならないのだろう。
「俺が作ってる衣装は女装用の衣装だよ」
そう告げるとシラノは目をぱちくりとさせて俺の顔を見た。
「いい機会だ、見せてやるよ。ちょっと待ってな」
思い立って二階に登って衣装箪笥を開く。
俺の女装衣装はすべて和風の極彩色衣装になるので衣装箪笥は少々目に痛いほどに華やかだ。
男物の服を脱ぎ捨てて友禅と銘仙を組み合わせて仕立てたドレスに袖を通し、花魁風の白塗りを施して紅を差す。最後にかつらを被り模擬刀を腰に差したりなんぞしてみる。
基本的なイメージは昔映画のさくらんってあったろ?あの感じにVシネマとかの世界観を足した感じだ。まあ女学生風もあれば町娘風もある。その辺は気分次第。
ゆっくりと立ち上がって大きな姿見で確認すればもう一人の俺の出来上がりだ。
しゃなりしゃなりと階段を降り、シラノのいる茶の間の扉を開けるとぽかんとした顔をする。
軽くくるりと回って裾をふわりとたなびかせた後、静かに腰を下ろしてかつらを外す。
「……女装するとこうなるんだな」
「ああ。もし女装趣味の男と一緒に暮らすのが嫌なら古内さんに相談して別の人に面倒見て貰ってくれ」
「でも自分で衣食住をその女装で賄ってるんだろ?」
「いや?これ着て踊るのは趣味。金は貰ってるけど衣装とか交通費とかで全部消えてる」
これは俺が大学生ぐらいの時からの趣味で、自分で作って着ている。
たまーに俺の衣装で女装したいって奴に頼まれることはあるけどやっぱり収入ってほどの額は入らない。
シラノはいまいち理解しかねるようで首を傾げていた。
「この国には色んな趣味の人がいるんだよ。そしてみんな、自分で衣食住を賄ってるから誰にも文句を言わせず好きに生きてる」
もちろん世間体とか気にする奴もいるけれど、俺の周りは大体自立して法律の範囲内で好きに生きてる奴ばかりだった。
シラノはまだそういう世界を知らないのだろう。
試しにひとつ、そういう例を見せてやるのも悪くないかもしれない。
「せっかくだし見に行ってみるか?」
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