第5話
シラノはどうやらこの1ヶ月でここは異世界なのではないか?と言う疑念を感じていたらしい。
同じ世界であるにしてはあまりにも常識や感覚が違いすぎ、死後の世界と呼ぶには生活が生々しすぎ、神の世界にしては少々薄汚い。
それで1番しっくりきたのが異世界という訳らしい。
(異世界って言われてもな……)
シラノはそれで納得してるようだが突飛過ぎて俺としてはにわかに信じがたい。
「まだ北センチネル人って言われた方が納得しますよ」
「地球上の未接触民族はそのほとんどが中南米やアフリカなので、白色人種の未接触民族である可能性はかなり低いですよ」
それを言われてしまうと否定出来ない。
(金髪碧眼でどう見ても白色人種だもんな……)
『全ての不可能を除外して最後に残ったものが如何に奇妙なことであってもそれが真実となる』とホームズは言ったが、心情的にはいささか納得し難いところがある。
異世界人なんて物語の中にしか存在し得ないものが俺の横にいるなんてそんな簡単に信じられないだろ?
「心情的にはどうあれ、その可能性も視野に含めてこれからの話をしましょう」
古内さんはこれからの話を始めた。
まず、異世界人である以上前に見せて貰った金貨やあの甲冑以外の資産は無く帰ることも出来ないとする。
無保険者であるので入院費は相場の3倍はかかるし、その上義足も必要になる。それらを賄うにはあの金貨を全て売却しても足りないと言う。そして義足ができた頃には無国籍無保険無職無一文のないない尽くしの外国人が誕生する訳だ。
そこで提案したのが外国人の記憶喪失者として裁判所へ申請して仮戸籍を取得する事だった。
これならば手間はかかるが保険で義足を作れ、就職などの支援を受けて自立出来る。
「その辺りのサポートは病院でも行わせていただきますので」
古内さんがにこやかにそう告げて来る。
まあこれで上手く行くのなら俺としては文句は無い。
シラノは「一時的とはいえ他国の人間になるのか」と悲しげに呟く。
「お国への誇りはあるかもしれませんが帰れない可能性が高い以上、こちらで生きていくために国籍を取得することを検討してください」
「……少し、考える時間が欲しい」
シラノはどこか辛そうにそう答えた。
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