第4話

通院はいつもバスや電車で行くようにしている。

これはシラノが1人で通院できるようにという練習であり、俺としてもいちいち人のために運転するのも面倒なのである程度は自分でなんとかして貰いたかった。

市営バスとは名ばかりのワンボックスがうちの近くに来るのは日に10本ほどと数が少なく、タイミングを合わせてバスに乗っても駅まで30分。

さらに病院の最寄り駅までは各駅停車で30分、そして最寄り駅から病院までバスで15分。

(これだけで地味に出費なんだよな……)

Suicaのポイントを貯めさせてるので多少の足しにはなってるが、収支で言えばマイナスだ。

しかしいつまで俺がシラノの面倒を見なきゃいけないのかもわからないし、1人になってから何も出来なくて泣きつかれるのも面倒だから自分で出来るようになってもらうことは大事だ。

「……マジで自立したら返して貰えねぇかな」

そんなぼやきが口をついてしまう。

「帰ったらこの恩は10倍にして返す」

自称騎士団長の不審者にあんまり期待はしないが、まあそういうことにはしておこう。

病院に着くとシラノに手続きをさせ(これも練習である)て1人で担当医のある部屋に行かせ、その間に俺はいつも世話になってるソーシャルワーカーさんの元を訪ねる。

「こんにちは、古内さん」

この病院のソーシャルワーカーの古内さんは俺にシラノの面倒を見ることを提案した張本人で、俺は何かと愚痴をこぼしに来ていた。

「お久しぶりです」

保健室の先生みたいな雰囲気の古内さんは俺をソファに座らせてきた。

「今日なんか話があるとか言ってませんでした?」

「ありますよ。でもこれはシラノさんにもお話しする予定なのでまずはお先に岩瀬さんの愚痴でも聞こうかと」

気を遣ってくれてるのかくれてないのかよく分からないが、もう何を言っても仕方ない気がするので近況報告してみる。

「マジであの世間知らずなとこさえ無ければなんとなかなりそうな感じですね」

「そんなにですか」

「使い方を覚えたものがかなり増えましたね、俺の家にあるものは大体なんとなく使い方覚えた感じです。

まあ見た目はデカくて怖いですけど人柄は悪くないんで近所のジジババ受けは良いですし、動物の解体が出来るらしいんで近所の猟友会の手伝いに行ってジビエでも貰って来いって話はしてます」

「ある程度馴染めた感じですね」

そんな感じの雑談を繰り広げていると、シラノが担当医の久慈先生と共に現れる。

どうもこの4人で話したい事があったらしく「ちょうど良いタイミングです」と言って古内さんがある書類を取り出してきた。

出してきたのはシラノの遺伝子検査の結果だ。

「これ、俺が見て良いやつですか?」

「見せられない部分は出さないので自主的に覗こうとしなければ大丈夫ですよ」

そう言って見せてきたのは遺伝子検査の最初の方に書かれた人種にまつわる項目だ。

その項目は「該当なし」という文字があった。

「地球上のすべての人の遺伝子はミトコンドリアや染色体を元にハプログループというチーム分けができていて、そこから民族的な絞り込みをする事で出身地の推測が出来ます。シラノさんの場合、んです」

「……それはつまり、地球上に同じ遺伝子を持った人がいないって事ですか」

「恐らくは」

シラノはあまりピンと来ていないようだが、なんとなく分かったのはこいつが地球人ではないという可能性が出てきたという事だ。

「私の親族は見つからなかったのか?」

シラノの問いかけに対して「親族以前にそもそもシラノさんと同じ祖先を持つ人がこの世界に存在してない可能性が高いんです」と答える。

そしてシラノはしばしの瞬きののちに「そうか、」とつぶやく。

全く人間にしか見えないものが地球外からの存在あると言う事に対して言葉が出ない俺に対して、シラノはつぶやく。



「やはりここは異世界だったんだな」

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