第3話
一か月後、自称サルデニユ帝国騎士団長はうちに転がり込むことになった。
警察と協力して身内らしき人を探し回っているらしいがいう事言う事が全部ファンタジー世界の話ばかりなので、遺伝子検査を行うも国内に該当者が居らず現在海外まで広げているらしい。
しかし並々ならぬ回復力で退院可能な状態になってしまい本人の要望や病院側の都合で退院させることになったそこらへんには置いとけないので、俺のほうに泣きつかれたと言う訳である。
「帰れるまで世話になる」
ごくわずかな身の回りの品と松葉づえだけを持って転がり込んできたシラノはでかかった。
190センチは越えてそうな男に「とりあえず頭上気をつけろよ」とだけ伝えると「ありがとう」と答える。
「シラノ、お前の部屋は一階のいちばん奥の部屋でいいか?」
「私は居候だからな、どんな部屋でも構わない」
最初は俺の寝室にするつもりだった一階の奥の部屋はシラノが転がり込むことが確定したので急遽模様替えした。
とりあえず中古の折り畳みベッドとサイズの合わなかったカラーボックスを置いてあるので松葉づえでも不自由はしないだろう。
「ここをひとりで使っていいのか?!」
「ああ。とりあえずベッドと棚しかないけど」
「個室なんて新兵の部屋より立派だぞ!?雨漏りも隙間風もない!」
よく分からん感動をされつつもまあいいかと突っ込みを放棄した。
この自称騎士団長は何者なのか、そして俺はこの男の面倒をいつまで見るのか、ぼんやりした不安を抱えてのスタートだった。
しかし、その期待はいい意味で裏切られた。
足が無いので多少生活の不自由はあったが自分の事はちゃんと自分でこなせる男だったのである。
『新兵時代に叩き込まれた』という最低限の家事能力のみならず、そのガタイに見合うだけの力仕事をこなす能力があった。
松葉杖をつきながら近所のばあちゃんから貰った30キロの米を担いで坂道を上る姿を見た時など、こいつ一人でも生きていけるんじゃね?と心底疑うほどだった。
しかし現代社会で生きていれば当然の知識を持ち合わせていないようで、それゆえの奇行には俺も病院関係者も頭を悩ませた。
なんせこの男、洗濯機の音にビビり、テレビのチャンバラシーンで刀を構え、ラジオすら理解できない。
(……見てる分には良いんだけどなあ)
内心でそう呟く俺の心も知らず、今日もシラノはsiriに恐る恐る話しかけるのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます