第2話 状況整理

「ここは…?今一体何が起きたんだ…?」


「……突然体が光りましたね…」


俺たちは完全に思考が停止して数秒呆然と立ち尽くしたが、俺は冷静に少しずつ今の状況を分析し始めていた。


地球のどこか…ではないかもしれないと最初からなんとなく感じていた。というのも、この草原とも荒野とも言い難い場所に立っている木は通訳・語学の鍛錬のために全ての大陸と100以上の国を周ったことがある俺でも目にしたことのない形をしていたからだ。

信じがたいがここは俺たちが住んでいる世界とは別の世界、頭によぎったのは"異世界転生"の文字、最近良く同じようなテーマのゲームやアニメが流行っていると聞いたことがある。いや、将星の姿を見ると控え室にいたときの姿形から変化はない。この場合生まれ変わってはいないから"異世界転移"か。


目の届く範囲は一通り探索してみたが、道路やその他のインフラなど人類の開発の形跡と取れるものは見当たらない。


次に自分の持ち物を確認した。

上着として着ていた所属チーム名のロゴ入りパーカー、お腹のポケットに電池残量76%のスマホが入っていたが圏外だ。

アプリやインターネット検索も使用不可だが、オフラインでも使用できるカメラやメモ帳のような機能は使えるようだ。しかし、次いつ充電できるか定かではない状況下であるためすぐに電源をオフにした。

将星の持ち物もチェックする。将星は為されるがままボディチェックを受けた。が、試合に出て控え室に戻ってきた直後だ、所属チームのユニフォームを着ているだけで当然所持品はない。


どうやらサバイバルの始まりかもしれない。


「平次さん、これからどうしますか?」

「そうだな、最優先は水の確保から。帰り方が分かるまでこれから何日かかるかわからない、できれば食料と安全に休息できる場所の確保も同時に進めつつ、周辺の情報を収集したら太陽と星を見て方角の把握、今のこの地域の季節を知りたい…あとは…」


「「く、来るなぁ!!」」


男性の怯えたような声が近くの岩を挟んだ向こう側から聞こえた。

人がいるということはきっと近くに生活圏があるはずだ。どうやらサバイバルはしなくて良さそうだ。だが男性の声と言葉からかなり緊迫している状況であることは間違いない。

俺と将生は岩陰から隠れながら男性の声がする方を覗いて見た。


そこには中世史に出てきそうな簡易な衣服を見に纏った男性が剣を手にして剣先をその畏怖の対象に向けている。鎧は身に纏っていないが足元や剣を帯同していることから歩兵程度だが兵士であることが伺える。腰が抜けてしまっているのだろう尻もちをついたまま地面を這う様に後退りをしている。だが、そのスピードではそこから逃れることは到底できない。男性兵士の後ろ側は切り立った岩の壁になっている。ここまで逃げてきたようだがもう追い詰められて逃げ場は無い状況だ。

そして、その男性のまわりにはまぁ一言で言えば典型的な"ゴブリン"がいた。

体皮は緑色で耳は尖っている口は頬まで裂けており見るからに醜悪そうな顔をしている。手には棍棒を持っている個体や縄を持っている個体が見られる。

道具を使えるということはそれなりの知性を持ち合わせているのだろう。

数は十数匹、じわじわと男性兵士に詰め寄っている

これが悪質なドッキリでなければ、やはりこの世界は今まで住んでいた世界とは異なる世界のようだ。


「ヒ、ヒエェ!!く、来るなぁ!来るなぁ!」


男性の怯え肩を見る限りかなり切迫した状態であることは間違いない。



「と、とにかく、どうにかしないと!」


男性兵士から情報収集したいという目的もあるが、それより目の前で人間が襲われているのを放っておくわけにはいかない。

俺は落ちていた小石を手にしてゴブリンの集団に投げつけた。

小ぶりなナイフを持っているゴブリンの頭に当たりこちらに気づいたようだ。


「こっちだ!こっち!」

ゴブリン達を惹きつけるために声を上げてから踵を翻す。


「すまん将星!とりあえず走って逃げよう!」

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