窒息の症状と経過 その第III期

中島しのぶ

窒息の症状と経過 その第III期

 ボクには三分以内にやらなければならないことがあった。

 首に絡んでしまったロープを早く外さなきゃいけない――。


 最初の数秒から数十秒は血中の酸素、二酸化炭素濃度に異常が生じ、症状が現れる。息切れ、軽い呼吸困難を伴う状態。

 その後三十秒から六十 秒は急性呼吸困難、チアノーゼ、血中の二酸化炭素濃度は急激に上昇する。血圧、脈拍の上昇、さらに進行すると痙攣、脱糞を伴う。

 そして更に六十秒から九十秒は意識の消失、昏睡状態、筋肉の弛緩、仮死状態に陥り、これより進行すると回復は望めない。

 ここまで約三分間が窒息の第III期……その後は呼吸中枢の機能停止、末期状態、喘ぐように十回ほど呼吸を試みた後に呼吸が止まる――つまり死だ。


 何でそんな事を知っているかって? そんな説明は後回しにしてくれ。

 今はこの戒めを解かないと……と、手を伸ばすも手が届かない。

 がふっ……。

 声とも呻き声とも思える音が口から出る。

 そばにいる女の子、なんて名前だったろうか。泣きじゃくるだけで全く役に立たない。

 身体はもう自由に動かなくなり、痙攣も始まり脱糞もしているようだ。意識も遠くなる――。


 仕方がない、諦めるとしよう。

 どうしてこうなったか?

 滑り台で遊んでいた時に首に縄跳びのロープが絡まっているのに気づかず、そのまま滑ってしまだったんだ……。

 え? 滑り台? 縄跳び?

 ああ、ボクは幼稚園児になったばかりなんだ。

 ここで死んだら今までの苦労が水の泡。また人生をやり直さなければならない。

 タイムリーパーで人生は三回目だ。


 一回目の人生は内科医。三十代で交通事故死。

 医師の記憶を持ったまま二回目を迎えた時は驚いた。だからまた医師をめざしていたんだけど、今度は大学受験前に新型感染症で死亡。

 そして今度は幼稚園児。今度こそこのタイムリープを繰り返す謎を突止めたかったんだが……医師の時の知識から、あと三分もすれば脳死する可能性が






















 気がついたら病院。

 赤ん坊の鳴き声。あ、これはボクの鳴き声か。

 新生児として、また同じ少しだけ若返ってるはずの母の腕に抱かれていた。

 仕方がない、これからまたゼロ……じゃないな、四回目の人生を始めようか。

 何でこのような体質、タイムリープを繰り返し、さらに前世の記憶を持ったまま生まれ変わるのかを探す人生を。


Fin.

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窒息の症状と経過 その第III期 中島しのぶ @Shinobu_Nakajima

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