第46話 レイド

「前に出るぞっ!」


 ノイマンさんを中心とするタンク部隊が前に出る。

 がっちり固まるのではなくお互いがカバー出来る位置取りをしながらの広いエリアのとり方だ。


 タンクの近くにはヒーラーや魔法使いの人達が強力な一撃やサポートの為に隠れている。


「まだ蘇生とかねぇんだから死ぬなよっ!」

「うおっ!?おっも、ノイマンさんこんなの平然と受け止めてんのかよっ!」

「ヒール間に合わないッ!タンクっ!受け流したりできないの!?」

「無理言ってんじゃねぇ!!」


 ガチガチに作戦を固めている訳でもないこの戦いではあちこちで指示やら要望が飛び交う。

 俺たちアタッカーは機会を伺ってはいるものの下手に前に出れば即お陀仏というヒリついた空気に前へ出る人が居ない。


「セナ、援護できるか?このままじゃジリ貧だ」

「行けるよ、光虫は使えないから頑張ってね」

「おう! いざと言う時は頼りにしてるよ」

「もう世話が焼けるんだから......」


 セナに援護をお願いして前へと出る準備をする。

 前回1割のMPでギリギリ受け止めれなかった、もう少し魔力を込めれば押し返すとはいかなくとも数十秒の時間は稼げるはずだ。


 今、このレイドに必要なのは体制を整えて1呼吸する時間。

 焦り、早くなった呼吸と思考を1度フレッシュする。

 その時間を俺が作るんだ。


「ノイマンさん!体制を整えて!」

「イオリ殿っ!行けるんですな!?」


 落ち着いた声とは裏腹に少し驚いたような声色で俺に尋ねてくる。

 それに答える余裕はないので実際に見てもらうしかないだろう。


 全力バフをかけて戦えるのは20秒ほど、その20秒をきっとこのレイドメンバーなら有効に使えるはず。


「ふっ」


 受け流しながらカウンターを叩き込む。

 流石と言うべきか直前で体を翻しながら俺の攻撃をギリギリで交わす怪物。

 しかし、ギルマスの攻撃がまだ響いているのかイベントの時より格段にスピードが落ちている。


「はっ!」


 ギリギリで躱せば必ず体勢が崩れる。

 そこに風で作った地面を踏みしめ加速しながら斬り込む。

 深く斬りつけられた横っ腹から赤いエフェクトが飛び散る。

 鋭い牙を剥き出しにしながら俺をキッと睨む姿は効いているぞと俺に知らしめてくれる最高の表情だった。


「もっとっ!」


 奴の腹の近くで

 動きずらい間合いで

 もっと速く!


「ふははっ!」


 久しぶりの本当の強敵との戦いに、命を削りあった戦いに鼓動が高鳴る。

 まだ、もっと、戦えるっ!


「こっちだよっ!せっかく治ってたのに残念だったなぁ?」


 俺がイベントの時、やっとの思いで潰した右目をもう一度潰す。

 悲鳴をあげる怪物から無理やり刀を引き抜き、頭を踏みつけ首を斬りつけようとした時。


「チェンジ」

「助かった!セナ!」

「警戒!」


 セナの言葉に万全の状態と言えるほどまで整ったレイドメンバーの視線が、昇った太陽を睨みながら大きく吠える漆黒の狼に集中する。


 真っ黒に染まったその体から黒い煙を吹き出し、辺りを覆ってゆく。

 光の届かぬ暗い暗いフィールドが怪物を中心に出来上がる。


「ライト!」


 1人の魔法使いの声と共にポツポツと光の球体が浮かび上がり暗いフィールドを照らす。

 全員がやばいと察したのか中心へと全員が集まってゆく、徐々に出来上がった防御陣はヒーラーや魔法使いなどの重要役職を完全に守るための陣形。

 セナはフクロウやオオカミを出して周囲を警戒させ始めた。


「うっ!」


 ガギンッ


 金属が削り取られるような鋭い音が響く。

 タンクの1人が盾越しにかなりのダメージを食らったようで驚きと苦しさが混じった呻き声をあげる。


「耐えるのは無理じゃ!リソースを削ってでも何か策を!」


 ノイマンさんがそう叫ぶと動けるアタッカー達が動き始める。

 シュバルツさんは何やら考えがあるのかずっと1人離れたところで立っている、何をしようとしているのだろうか。


「なっ!ぐっ、足元にき」


 アタッカーの1人が叫びながら死んだ。

 プレイヤーの足元には黒い影が纏わりついておりあれに足を取られたのだろうと推測できる。


「セナ、俺も行ってくるよ」

「もしもの時は使うね」

「頼んだ」


 真っ暗な世界では距離感覚がおかしくなるのか走っても走っても周りを見ていないとどれくらい走ったのかが分からなくなる。

 こうやって考えている間にもアタッカーが1人、また1人とやられて行っている。


 どうする、なぜあいつは攻撃する時以外に姿が見えない?

 ギミックなんてこのフィールド以外にあるはずがない。

 クリアフラグも立っているこの状況で攻略不可能なこんな技をこのゲーム運営が出すとでも?


「セナ!光虫を!」

「分かった!みんな信じて目を瞑って!」


 セナが召喚した光虫を空高く放り投げる。

 加速する準備を整え目を光ったのを確認したと同時に開ける。


「見つけたぁ!!」


 足りなかったのは光量だ。

 ライトという魔法は辺りを明るく照らす。

 その照らされた範囲を走っていたから端に近ずいたアタッカーは姿をほぼ見ることすら出来ずに死んだ。


「死ねっ!」


 光にひるんだ隙に完璧に入るはずだった一撃は戻った暗い煙に防がれてしまう。

 光虫の光の余韻が足りなかったのだ。


「っ!ちっ!」


 念の為に地面に足をつかないように風を踏み台に全員がいる方へと下がる。

 あそこで捕まえられて死んだら絶対に萎えてたぞ......


「おいおい、シュバルツの野郎何考えてんだ!?」

「あやつは放っておけ大丈夫じゃ」

「ノイマンさんっ!?メインの火力でしょう?」

「策があるのでな、大丈夫じゃよ」


 シュバルツさんは1人暗闇の方へと歩いていく。

 明かりの届くギリギリに近づく。

 その時は訪れた、シュバルツさんの足が黒い霧が覆い、動きが止まったシュバルツさんに鋭い爪が襲いかかる。


『パリィスラッシュ』


 青白い光がパリィの成功を知らせると共にカウンターで放たれた赤いエフェクトを纏った一撃が怪物の体を切り裂く。


「今じゃっ!」


 ノイマンさんの掛け声でライトが移動し、ひるんだ怪物を取り囲むように明かりが展開される。

 消化試合、もう使える手がないのか魔法や矢の雨を浴びせられ怪物は今度こそその巨体を横たわらせ死んだ。


「「「「「「おぉぉぉぉぉぉ!!!!」」」」」」


 誰かが静寂を破るように雄叫びを上げ、それに続いてみんなが大きく声をあげる。

 この、何かを大勢で達成出来たという達成感がレイドをやめられない理由の一つだろう。


「やったな、セナ」

「だね、このワイワイ感、懐かしいね」

「だな、これからもっとこんな事できるといいな」

「いいな、じゃなくてやるんでしょ?ね?」

「だなっ」


 レティアの頃からレイドなどのイベント事には積極的に参加してその度に打ち上げやら報酬分配のワイワイした時間を楽しく過ごしたものだ。

 戦いの中で生まれる絆や友情で友達が出来たことだってあった。


「ふふっ、1人で戦ってたイオリくん、カッコよかったよ?」

「なっ///ありがとう......」

「ふふ、さ、あっち行こ〜、ノイマンさん達に挨拶に行かなきゃね」


 最後の最後にこんなに心を揺さぶられるとは......



 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

 ちょっと長めでしたがどうでしたでしょうか?

 レイドってわちゃわちゃで楽しいっすよね、プラスな面だけ見てると何度でもやりたい遊びですわ。


 昨日は投稿なくてすみません

 書きだめがホントになくてカツカツなんです......

 これからはまた続けれるように頑張ります。

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