第14話 敗北

セナの放った矢が俺の眉間を貫き俺は負けた。


「私の勝ちですね」


勝ち誇った顔で手を差し伸べるその姿はレティアの頃のセナを思い出させるような仕草で懐かしさを感じた。


「負けたよ」

「ふふ、いくらステータス補正があってイオリくんの運動神経が良くても負ける訳には行きませんから」


昔からスキルなどのゲーム要素がない戦いだと1度も勝てたことがない。

弓の精度は神がかっていて、近接もなかなか上手いのだ、勝てるはずがない。


「ちょっと騒ぎすぎましたかね」

「離れようか」


戦っているのが珍しかったのかかなり人集りが出来ていて、このままゆっくり話せる状況でもないので場所を移す。


喋りかけてくる人もいたが適当に流しながらそそくさと路地に逃げ込み。

鍛冶屋まで行くことにした。

まだ路地から行く道は覚えきっていないのだがシャーレがいつも徘徊しているので案内してもらう。


「イオリくん!?路地裏に連れ込んで何するんですか!」

「え?あ〜、結構人が詰めかけてきたから逃げようかなと」

「え、あ、強引だったから勘違いするじゃないですか」

「ん?」


何かブツブツと呟いているがシャーレを探さないと迷子になってしまう。


「んにゃ」

「おぉ!シャーレ様、鍛冶屋まで連れていってください」

「ねこちゃん?」

「にゃ」


仕方がないと言った感じで短く鳴くと、俺たちの歩調に合わせて歩いてくれる。

セナと話したいことは山ほどあるがとりあえず鍛冶屋に行く。


「セナ、逃げたついでに受けてるクエスト完了してもいい?」

「え、あ、全然!いいよ!」

「ありがとう」



セナの許可も貰ったので結局面倒くさがって渡していなかった竜石を渡しに行くことにした。

あとは刀の値段やらを聞いて刀を使えるようになるための準備を始める。


誰よりも早く刀を使えるようになるなんてかっこいいじゃん?

俺が刀使いの先駆者になるんだ!


「ん?なんじゃ裏口から来たのか、そっちの嬢ちゃんはお前のこれか?」


小指を立てながら俺に聞いてくる仕草は一昔前のジジイそのものだった。


「そんなんじゃないですよ……お願いされてた竜石届けに来たんですよ」

「なんじゃと!?もうあのトカゲを倒したのか?それとも本当に拾ったのか?」

「倒せましたよ、何とかね」

「そうかそうか、なかなかお主も強かったんじゃの」


これで頼まれていた依頼が終わったので次は刀の値段を聞く。


「刀っていくらくらいするんだ?」

「そうじゃの4万といったところかの、あと熟練度が2は欲しいぞい」

「分かりました、また来ます」

「嬢ちゃんも来るといいぞ、安くしてやるからの」

「わ、分かりました」


表の入口から外へ出る。

人集りから逃げきれたみたいだしこの後どこへ行こうか……


「セナ、どうする?この後行きたいところとかあるか?」

「うぇ!?は、はい!」

「どうしたんだ?」

「い、イオリくんは緊張したりとかしないんですか?ほ、ほら、お互いリアルで会ったというか出会ってたじゃないですか……」

「あ〜、そういえばそうだな、ゲームしてる間はなんか大丈夫なんだよ、多分ログアウトしたらドキドキしてるんじゃないか?」


昔からゲームはゲーム、現実は現実と分けて考えているせいでなかなか実感が湧きずらいのだ。

長谷川さん=セナという式が出来上がらないというか


実感が湧かないせいかこんなに気楽に接することができている。

ゲームを閉じればきっと実感が湧いてぎこちない空気になってしまうのだ、ログアウトするまでに何とか関係を再構築しないと……

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る