第3話 初戦闘とステータス

「よし、あれがゴブリンだな」


 目の前には緑色の1メートルほどある小さな人型の生き物がいた。

 手にはそこら辺に落ちていそうな木の枝が握られている。


「よし、すぅーー、せいっ!」


 俺は落ちていた石を思いっきりゴブリンに投げつける。

 見事にゴブリンの後頭部に直撃し、HPバーが3割ほど削れた。


「ぐぎゃぁ!?」


 驚いた様子で振り返り、こちらを見たゴブリンは状況を理解したのか怒りをあらわにしながら走ってくる。

 直線にただ走ってきてジャンプからのただの振り下ろし。

 初心者用の魔物は伊達ではないようで分かりやすすぎる動きに思わず笑いがこぼれる。


「ふはっ」


 俺の振りかざした剣はゴブリンをしっかりと捉えてHPを一気に削る。

 残り一割ほどの赤いエフェクトを散らしながら地面に這いつくばっているゴブリンに容赦なく足蹴りを食らわせるとポリゴンとなって消えてしまった。


「余裕だな、さっさとランクあげて強い敵と戦いたい」


 クエストはゴブリン10体の討伐、そしてミーシャさんにオススメしてもらった薬草10個納品


 薬草なんかの採取系は熟練度で取れるかどうかが決まるらしく。

 要は草むしりをやりまくれば薬草なんかの低級素材は手に入るそうだ。


「よし、一気に片付けるぞ!」


 ゴブリンに石ころブン投げて蹴って斬って草むしり。

 そんなこと10分繰り返した頃には両方のクエストを達成することが出来た。


「ふぅ、終わったけど物足りない……レベルはまあまあかなぁ」


 ステータスポイントはDEX器用STR筋力AGI速さに適当に振り分ける。


 レティアもそうだったのだがスキルという概念がなく熟練度に応じてできることが変わるのだ。

 例えば剣を使いたいなら剣を使い続けることで熟練度が上がって、動きに補正が入ったり受け流しやパリィに補正が入るようになる。


「もうちょっとだけ森の方に行こうかな」


 ゴブリンに物足りなさを感じた俺はさらに奥へと進むことにした。

 森に少し近づくと大型犬くらいの大きさのオオカミがいるのが見えた。

 ここら辺からやっとチュートリアルが終わったという感じだろうか?


「ガルゥゥ」

「お、気づくの結構早いんだな」


 まだそこまで近づいてないというのにオオカミはこちらを向いて牙を見せる。

 ゴブリンとは段違いのスピードでオオカミは俺に近づき爪を振り下ろす。

 サッと体を横に逸らして避けつつ反撃の一撃を当てる。

 3割ほどオオカミのHPバーが減った。


「勝てるっ!ふふ、ははっ!」


 オオカミは反撃する隙もなく連撃を叩き込まれポリゴンとなって散ってしまった。

 段々と勘を取り戻してきたので体が思った通りに動き、この程度の敵なら目をつぶっていても勝てそうだ。


「ミーシャさんのところにでも行くか」


 俺はこれ以上戦ったところで無駄だと思ったので冒険者ギルドに帰って新しいクエストを貰いに行く。


「無事に帰ったみたいだな」

「えぇ、腕には自信があるので」

「それは頼もしいな、まあ、十分に気をつけるんだぞ」

「はい、ではまた」


 門番に挨拶をすると街の中に入り、冒険者ギルドに一直線に進んでいく。

 このゲームはかなりデスペナが重いらしく、所持金の2割がその場に落ちるそうだ。


「はぁ?もっと強い敵と戦える依頼とかねぇのかよ!」

「そんなことを言われても規則は規則なので」

「つっかえねぇ、NPCだな!融通することすら出来ねぇのかよ、お前らNPCはプレイヤー様の言う通りに動いてればいいんだよ!」

「っ!」


 凄いな、怒りを抑えている仕草までしっかりと作り込まれている。

 もうこれは人間との違いがいよいよ頭上のカーソルくらいしかないように見える。


「おい、そこら辺にしておけよ」

「なんだよお前!NPCを助けて王子様気取りか?随分寂しい人生なんだな!」

「はぁ、これ、受けろよ」


 俺はよく分からない、ゴミ男に決闘を叩きつける。

 決闘で負けた時のペナルティは自由に決めれるので今回は所持金全額を相手に譲渡するというものにした。


「いいぜ!吠えずらかいても知らねぇぞ!」

「いいね〜、その三下っぽいセリフ」

「死ねよ!」

「い、イオリさん、大丈夫なんですか?あの人レベル6ありますよ?」

「大丈夫だと思いますよ?」


 どうやら冒険者ギルドに来る前に先にフィールドに走ったのだろう。

 俺よりもレベルが1高かった。


 5

 冒険者ギルドから出ると決闘のカウントダウンが始まる。

 街の道のど真ん中で行われるその試合にはたくさんの人たちが群がってきた。


 4

 あの三下の仲間のような奴らが動画を撮っているようだ、負けたらさらし者か。


 3

 レティアでも決闘機能があったけど楽しかったな、強いヤツと戦えるのはそれだけ練習になるのでよくやっていた記憶がある。


 2

 昔から戦う時に笑ってしまう癖があり、あの3人以外には怖がられたっけ


 1

 あぁ、楽しくなってきたな


「おら!死ねや!」


 ただの大剣の大振り、真っ直ぐ何も考えていないただの振り下ろしは俺に当たることはなかった。

 大剣の間合いにならないように距離を詰めると目潰しからの首に思いっきり剣を突き立てる。


「ゴバッ」

「声が出てねぇじゃねぇか、さっきまでの威勢はどうしたんだよ」


 首を切られて喉を潰された男はモゴモゴと叫ぶだけ。

 顎を蹴り上げ、剣を引き抜き、自由になった剣で敵を切り裂く。


 You Win


 プレイヤー『アッシュ』が敗北したため所持金の全額が『イオリ』に移行されます。


「はぁはぁ、ひ、卑怯だぞ」

「ふはっ、まあまあ楽しかったよ、次はどいつだ?そこの動画を撮ってるやつか?それとも今お前を支えてる奴か?」

「ひっ」

「ちっ、逃げるぞ」


 またやってしまった。

 はぁ、気分が高まるとこうやって人を煽ったり次の戦闘を求めてしまうのは俺の悪癖だ。


「い、イオリさん!ありがとうございました!かっこよかったですよ!」

「そ、そうですか?いつも怖いって言われてたので」

「いえ、そんなことないですよ!とってもかっこよかったです」

「ありがとうございます」

「あ、依頼完了したんですよね!受付しますね」

「お願いします」


 少し照れるな、仕方ないだろ?仕草まで完璧なんだぜ?童貞には厳しいものがある。

 その後、終始ニコニコで目を見つめられて対応された俺はNPCにドギマギして死んでしまうかと思った。


「これが報酬の5000マニで規定の条件を達成したのでFランクに昇格しておきますね!これからも頑張ってください!」

「次におすすめの依頼ってありますかね」

「そうですね〜、イオリさんは強い魔物と戦いたいってことでしたし、フォレストベア3体の討伐なんてどうでしょうか」

「いいですね、じゃあそれ受けます」

「はい、受理しました!あ、森に現れるフォレストビーって言う蜂がいるんですけど絶対に戦っちゃダメですよ!蜂蜜はここら辺で数少ない甘味なんですけど手に入れようとして集団に殺されちゃう人結構いるんです!」


 蜂蜜か、ミーシャさんの目が輝いていたし相当貴重なんだろうな。

 流石に今は無理そうなのでいつかプレゼントすることにしよう。


「ホントですか、じゃあ今は戦わないでおきますね」

「はい、では行ってらっしゃい」


 ミーシャさんに見送って貰って俺は冒険者ギルドを出た。

 流石にそろそろ回復薬を買った方がいいような気がする……

 でも、なくても何とかなりそうだよなぁ

 悩んだ俺はとりあえず街を歩き回って見ることにした。








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