サービス開始と幸運

「残り10秒……」


 カウントダウンが進んで行きいよいよ待機列の何番目なのかが公開される……


『ゲームへのログインを開始します』


「えっ?」


 何が起こったのか一瞬理解できなかったが目の前のパネルに『あなたは待機グループ1です』と表示されていることから最初のグループに混ざれたことが分かった。


「よし!それなら話は早い早くキャラメイクだ!」


『アカウントの確認が出来ました、ようこそ

 セトラ・オンラインへ』


 ゲームが始まる独特の懐かしい感覚と共に目の前に真っ白な空間と青白く光るパネルが現れる。


「君は運がいい人みたいだね〜、ここではキャラメイクをしてもらうよ」

「NPCか?随分流暢に喋るんだな」

「そうだけど、ゲームの世界に入ってからはNPCって言わない方がいいよ、結構高度なAIを積んでるから不快に思われちゃうかも?」


 俺の質問と捉えられるか分からないつぶやきにスラスラと話す目の前の妖精に驚く。

 確かにこのゲームの紹介映像ではNPCが妙にリアルだったので運営が中に入ってるのだと予想していたのにまさか本当にAIなのか?


「驚いてるね〜、開発者も喜んでるよ、あの人達レティアが頓挫してから死に物狂いでこの世界を作り上げたからね、ある程度の天才達が自分の欲のために本気で作り上げた世界なんだ、そりゃあ全てが驚きに溢れてるに決まってるでしょ?」

「そうなのか、分かった、向こうではNPCって呼ばないよ」

「そうそう、聞き分けが良くて嬉しいね」


 ここまで会話に合わせて流暢に喋られてしまえば信じるしかないだろう。

 俺は気持ちを切り替えてキャラメイクを始める。


 中学の頃に作ったアバターは厨二病全開の眼帯に金髪やありとあらゆる物を詰め込んだ見た目をしていたので今回は少し大人しめのアバターにするつもりだ。


 黒髪で少し目に髪の毛が掛かるくらいに髪を伸ばす。

 顔は現実の写真を元に少し美化する程度に留めておく。

 身長はいじれないので現実と同じ176cmでアバターを作る。


「お、終わったのかい?キャラネームも決めちゃいなよ〜」


 キャラネームか、あいつらに会いたいから同じ名前にしておくか。


「イオリでお願いします」

「おっけー、イオリくんね」

「他にもチュートリアルの説明なんかがあるんだけど聞いていく?事前に知ってたりするのかな?」

「しっかり調べてるので大丈夫です!」

「それじゃあ、セトラの世界へ、行ってらっしゃい」

「最後に名前だけ教えてください」

「セーラルだよ、君なら向こうの人達とも仲良くやれそうだ」


 セーラルか、また会えるだろうか?

 こんなに楽しそうな世界で初めて話したのだ、きっといつまでも記憶に残っているだろう。


 目の前の手を振る妖精を見ていると視界がぼやけて浮遊感に襲われる。

 聞こえる水の音や人の喋る声、足音、うっすらと閉じた目の間から感じる光は現実のものとそう変わらないと感じた。


 目を開ければ賑わっている西洋風の街並みが広がっている。

 人々の上には白いカーソルが浮かんでいてNPCであることが分かるのだがカーソルがなければNPCであることに気づけないほど自然に街で生きている。

 チラホラと見える緑カーソルはプレイヤーだろう。

 俺も出遅れる訳には行かない、とりあえず街を探索しよう。


「お、お兄ちゃん、開拓者さんかい?」

「えーっと、はい、そうです」

「おぉ、やっぱり女神様の天啓の通りだったんだな、期待してるぜ兄ちゃん!」

「はい、任せてくださいよ」


 こういうのはロールプレイだ。

 女神ってのは多分この世界に俺たちを呼んだってことになってる神様だよな?

 邪神に敗れて、俺達を召喚して加護を与えたって話だ。

 女神自体はもう力が残っていないらしく、俺達開拓者に全てを託したってのがこの世界の導入だったはず。


「へへ、頼りになりそうだな!そうだちょっとした気持ちだよ、あと冒険者ギルドはこのまま真っ直ぐ行くとあるから行くといいぜ!」


 ヘルダがリンゴ×3をあなたに譲渡しようとしています。


 お、こんなこともあるのか、もちろん受け取る。


「ありがとう!名前だけ教えて貰ってもいい?俺はイオリって言うんだ」

「そういえば名乗ってなかったな、ヘルダって言うんだ、また会ったらよろしくな!」

「うん、ありがと、またね〜」


 本当に驚いたな、あれがNPC?

 下手な人間よりコミュニケーションが取りやすいぞ……

 これはいよいよ好感度があると考えた方がいいな、ちゃんとした対応をしなければしっぺ返しをくらいそうだ。


「ここが冒険者ギルドかな?いかにもな建物だけど」


 ヘルダに言われた通りに大通りを歩いているといかにもな木造の建物があった。

 他の建物よりふた回りほど大きく、NPCの冒険者が少し出入りしているのが見える。

 覚悟を決めて冒険者ギルドに足を踏み入れる。


「あ、開拓者さんですか?受付はこっちでーす!」

「ありがとうございます、初めまして」

「初めまして!初めて来た開拓者さんですよ!第1号さんです!」

「まだほかの人は来てないんですね」

「そうなんです、今日は気合い入れてますからね!何人来ようとバッサバッサ捌いてやります!!」

「頼もしいですね」


 受付にいたのはThe受付嬢みたいな格好をした。

 明るいポニーテールの少女だった。

 身振り手振りでバッサバッサと表している彼女はとても可愛らしい、絶対に人気が出るタイプだな。


「冒険者登録をしましょうか!こちらに手を置いてください!」

「分かりました」

「ふむふむ、イオリさんですか、職業は剣士、いいですね!魔物をササッと倒しちゃう剣士の人とか、かっこよくて好きです!」

「そうなれるように頑張りますね?それと名前を聞いてもいいですかね?」

「あ、私ですか!?名乗ってなかったや!ミーシャって言うんです!よろしくお願いしますね?」

「はい、よろしくお願いします」

「これが冒険者カードです!無くすとお金がかかっちゃうので無くさないでくださいね?」

「分かりました」


 周りのNPC冒険者からの人気も絶大なようだ。

 かっこいいという単語を聞いて自分の剣を誇示するように持ち上げたり、誇らしげに素振りをして注意を受けている冒険者など様々な反応を見ていると異世界に迷い込んだのではと思ってしまう。


「じゃあ、ミーシャさん、なにか良さげな依頼ありますかね?戦闘がしたいんですけど」

「お、イオリさん自信がある感じですか?」

「えぇ、勘を取り戻すためにサクッと倒せそうな魔物を知りたくて」

「じゃあ、このゴブリン討伐がオススメですよ!Eランクで受けれる討伐依頼なので」


 ゴブリンかレティアでも初期の方に出てきていたな、勘を取り戻すにはちょうど良さそうだし受けてみるか。


「じゃあ、それにしますね」

「はーい、あとついでに薬草採取なんてどうですか?お小遣い稼ぎにはちょうどいいですよ?」

「流石、受付嬢ですね、誘導がお上手です、それも受けますね」

「ありがとうございます〜、受理しましたので気をつけて行ってきてくださいね!」


 本当にさっきから驚かされてばかりだな。

 こうも自然な会話が出来ているとNPCであることを忘れてしまいそうだ。

 初対面だと敬語になってしまうのが少し難点だな。

 あまりにも人間っぽすぎて現実と同じ対応をしてしまう。


 この世界のことを考えながらミーシャさんに教えてもらった方へと進んでいく。この街には4つの門があるらしく今から行くのは北門で草原と少し奥に行くと森が広がっているらしい。


「この街かなりでかいよな、門も結構でかいし……」

「ふむ、開拓者か?冒険者カードを見せてくれ」

「はい」


 軽装をつけて槍を持っている、いかにも門番だなという見た目に思わず体が強ばってしまう。


「緊張しなくていいぞ、確認が取れたからなもう行くといい、女神様の加護で生き返れるとはいえ気をつけていくんだぞ」

「ありがとうございます!」


 怖いと思っていたがどうやらかなり優しい人だったらしい。

 威圧感は一気に無くなり気のいいお兄ちゃんという感じの柔らかい空気になった。


 俺は門から少し離れたところで初期装備の剣をインベントリから取り出す。

 ポリゴンと共に現れた剣を握る。

 4年ぶりに感じる、感触はより少しリアルで重みがあった。


「そういえば設定にリアルさを増すための項目があったよな」


 俺は設定を開き感覚設定という項目を開く。

 痛覚などの感覚がここである程度調整できるらしい、あまりにもリアルすぎると現実に支障が出る可能性があるので出力が制限されている。


「ふぅ、リアルな方がやりやすいよな」


 俺は感覚系を全てMAXまであげる。

 もちろん痛覚までMAXになる訳でそれだと危ないのではと思う人も居るだろう。

 しかし、MAXと言っても本当の痛みの4割再現程度だそうだ。

 俺は運営の警告を認証して全ての感覚をMAXにする。


「うん、質感がリアルだし、つねってみるとやっぱりちょっと痒いな」


 感覚に満足した俺は剣を素振りして少しずつ4年前の感覚を取り戻していく。

 ステータスのせいもあるが4年前より明らかに劣っている。


「当分はリハビリだなぁ〜」


 せっかくこんな面白そうな物があるんだ、できることなら極めてやりたいのがゲーマーの性というものだろう。


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