第40話「報告したい人がいる」

 凌駕くんと手をつないで帰って来た。

 男らしくて、大きな手の凌駕くん……そのあたたかい手に触れて、私は嬉しい気持ちになっていた。


「じゃあ、今日は帰るな。小春、ほんとにありがとな」

「ううん、私の方こそありがとう……またRINE送るね」


 私の家の前で、凌駕くんと別れる。ぶんぶんと手を振りながら帰って行く凌駕くんを、見えなくなるまで見送った。

 その後、ふーっと息を吐いて、家に入った。


「ただいまー」


 リビングに行くと、お母さんがいた。


「おかえり、外は暑かったでしょう、涼んで涼んで」

「うん、暑かった……けど、凌駕くんはこんな日も部活頑張ってた……」

「そうなのね、凌駕くんも頑張っているわね……って、なんか小春、嬉しそうな顔してるわね、いいことでもあったのかしら」


 お母さんにそう言われて、私はハッとした。も、もしかして顔に出やすいのかな……。


「あ、う、うん、まぁいいことがあったというか……」

「よかったわ、それも大事な経験よ。少しずついいことを増やしていかないとね」


 お母さんがニコッと笑顔を見せた。ま、まぁ、凌駕くんとお付き合いすることになったということは、いつか両親にも話さないといけないな……そう思っていた。


 ……その前に、そのことを話したい人がいる。私は「ちょっと部屋で通話してくる」と言って、自分の部屋に行った。話したい人とはもちろん――


『涼子、今通話できる?』

『うん、大丈夫だよー』


 涼子からRINEで通話OKの返事をもらって、私は通話をかけた。すぐに涼子が出てくれた。


「も、もしもし……」

「もしもーし、あ、小春ー、なんか小春が通話したいって言うのめずらしいね、何かあったー?」


 いつもの明るい声が聞こえてきた。涼子には話しておかなければいけない。ちょっと恥ずかしかったが、私は勇気を出して、


「う、うん、それが……実は凌駕くんと、お、お付き合いすることになって……」


 と、少し小さめの声でなんとか言うことができた。


「おおー! ほんとー!? よかったねぇ小春ー、なんか私も嬉しくなったよー!」


 スマホ越しに嬉しそうな声が聞こえてきた。よかったとほっとした私がいた。


「う、うん……学校で勉強しようと思って行ったら、たまたま凌駕くんと会って、一緒に帰って、そこで思い切って告白したよ……すごくドキドキした……」

「うんうん、緊張するよねぇ。あ、私はそんな経験ないんですけどねー」


 涼子がそう言って笑ったので、私も思わず笑ってしまった。


「……でも、ほんとによかったねぇ、凌駕の気持ちがちょっと見えないところあったけど、小春のこと好きでいてくれてさ。私もほっとしたよー」

「う、うん、こんな私が好きになっていいのかなって思ったけど、言わないと後悔しそうな気持ちもあって……」

「もちろんいいんだよー、何度も言ってるけど、恋をするのは自由だよ。病気なんて関係ない。凌駕もそのことは分かってくれていると思うよ」


 そういえば凌駕くんも、『恋をするのは自由だろ』と言ってくれたなと思い出した。自分に自信がない私でも、とにかく自分の気持ちを伝えることができて、本当によかったなと思った。


「う、うん、凌駕くんも同じこと言ってくれた……私ももっと頑張ろうっていう気持ちになったよ。病気を治すことも、学校に行くことも、全部……」

「うんうん、小春には私と凌駕がいるからねー、そこは安心して! あ、でももう凌駕がいれば十分なのかもね」

「い、いや、涼子もいてくれないと、困る……というか、これからも三人で仲良くやっていきたいから……」


 私が今まで頑張って学校に行けていたのは、涼子と凌駕くんのおかげだ。凌駕くんとお付き合いをすることになっても、涼子もいてくれないと困るのは間違いない。これまで通り、三人で仲良くやっていきたい気持ちは変わらなかった。


「……なんてね、冗談だよー。私もしっかりと小春のそばにいるからねー。凌駕が小春以外の女の子に目がいっていないか、しっかりと見ておかないとねー」

「そ、それはどうなのかな……あはは」

「男は浮気するっていうからねぇ。って、小春に心配かけさせるのもあんまりよくないか。ま、二人が改めて仲良くなったということで、今日は記念日だねぇ」

「う、うん……なんだか心も身体も軽いというか……よかったなと思うよ」

「まぁ、学校で今後も嫌なことがあるかもしれないけど、何かあったらすぐに私と凌駕に言うんだよー。そして、ゆっくり体調を整えていこうね」

「うん、ありがとう……ほんとにありがとう……」


 私はそう言って、ペコペコと何度もお辞儀をした……が、この姿は涼子には見えないな。ちょっと恥ずかしくなった。


「いえいえー、そういえば小春は学校で勉強したって言ってたね、あー夏休みの課題やっておかないとなぁ」

「うん、また三人で勉強しない……? 凌駕くんも言ってたよ」

「そだねぇ、また集まって勉強しますかー!」


 涼子の明るい声を聞いて、ほっとしていた私だった。

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