第33話「三人でお出かけ」
七月二十六日。
今日は涼子と凌駕くんと遊びに行くことになっていた。三人で遊ぶのは久しぶりで、私は楽しみにしていた。楽しみ過ぎて眠れないかなと思ったが、お薬の力でよく眠れたようだ。
気分もそんなに悪くない。よかったとほっとする自分がいた。それでもきつくなったらいけないので、一応頓服のお薬を鞄に入れた。たぶん大丈夫だとは思うが、念のためだ。
私は白のシャツと、この前もはいたネイビーのギャザースカートに身を包んだ。自分でもこのスカートは気に入っている。
準備をしてしばらくのんびりしていると、インターホンが鳴った。出ると涼子と凌駕くんが来ていた。
「小春、おはよー! 体調大丈夫?」
「おはよう、うん、大丈夫……行けるよ」
「小春おはよう、おお、よかったぜ。じゃあ今日は楽しみますか」
「あら、二人ともおはよう。今日は三人で出かけるのよね、楽しんできてね」
お母さんがやって来てそう言った。
「あ、おはようございます! はい、小春と一緒に楽しんできます!」
「ふふふ、小春も楽しみにしてたみたいだからね、小春、きつくなったら休憩しなさいね」
「う、うん、分かった」
「じゃあ行こうか、行ってきます!」
お母さんに見送られて、私たちは家を出た。朝から暑くなっているようだが、雨が降らなくてよかったなと思った。
「そういや、この前の試合で夏の大会は負けてしまったよ。涼子が負けろとか言うからだ……!」
「ああ!! い、いや、あれは冗談だよ、そっか、負けちゃったか……」
ちょっとしょんぼりしている涼子だった。
「……なんてな、冗談だよ。まぁ俺も最後三振してしまったし、もっと練習しないとなぁ」
「そっか、負けちゃったか……でも、一年生だしこれからだよね……」
「ああ、秋にはまた大会があるからな、それに向けて頑張ろうと思っているよ。おっと、俺の話じゃなくて、今日の話しようぜ」
「そうだねー、とりあえず駅から電車乗って、ショッピングモールの方へ行ってみますかー」
「うん、楽しみ……なんか、三人で出かけるっていうのがいいな……」
私がそう言うと、涼子がそっと近づいて来て、
「……小春、凌駕にそっとくっついちゃいなよ」
と、言ってきた。
「……ええ!? い、いや、それはできない……」
「なんだ? 二人で何話してるんだ?」
「ああ、いやいや、女子の秘密の話だよー。あ、もうすぐ電車来るね」
凌駕くんが不思議そうな顔をしていたが、私はあの抱きしめられた時のことを思い出して顔が熱くなっていた。わ、私、何考えているんだろう……。
……でも、凌駕くんのぬくもりは、今でもはっきりと覚えている。男の子らしくて、あたたかい凌駕くん。やっぱり私は恋をしているみたいだな……。
電車に乗ってしばらく揺られて、ショッピングモールの最寄り駅までやって来た。人はそこそこ多い。夏休みということもあって、高校生かなと思うような若い子が他にも見られた。
「なかなか人が多いねぇ、あ、あそこの服見ていい? 凌駕は面白くないかもしれないけど」
「ああ、全然いいぞ。俺も女の子の服見ることなくてさ、新鮮というか」
「まぁそうだよねー、そういえば今日の小春の服装も可愛いよねー、ねぇ、凌駕もそう思うでしょ?」
「え、あ、た、たしかに可愛いな……」
「……あ、ありがとう……なんか恥ずかしい」
うう、なんか涼子、そっと凌駕くんと私をくっつけようとしてない……? ますます顔が熱くなる私だった。
三人で楽しく服を見ていた。あ、このブラウス可愛いな、手に取っていると、「あ、それ小春に似合いそうだねぇ」と、涼子が言っていた。
凌駕くんの服も見てみた。さすが男の子、身体が大きいのもあって服も大きい。私が着たらぶかぶかだろうな、そんなことを思っていた。
「凌駕はわりとシンプルな色が好きだよねぇ」
「まぁそうだな、青とか黒とか好きかもな。最近赤も悪くねぇのではと思っているが。この靴も赤いライン入ってるしさ」
「そっかー、凌駕の好みがなんとなく分かったねぇ、小春さん」
「あ、う、うん……なんか嬉しい……」
「な、なんだ? 二人ともこの前からなんか変じゃねぇか?」
「そんなことないよー、あ、アイスでも食べない? あそこにアイスクリーム屋さんあるよー」
涼子が指さした方向に、アイスクリーム屋があるのが見えた。私たちはそこに行くことにした。こんなに種類があると迷ってしまうな……と思っていた私だったが、チョコレートチップを選んだ。涼子はチョコレートミント、凌駕くんはチョコレートムースを選んだようだ。
「あらま、三人ともチョコレート系になったねぇ、私たち仲良しだねぇ」
「あはは、まぁそういうこともあるよな。小春、美味しいか?」
「うん、美味しい……みんな似たようなもの選んだのが、なんか嬉しいな……」
ちょっと子どもっぽいことを言ってしまったかなと思ったが、二人もうんうんと笑顔でうなずいていた。ま、まぁいいか。
そんな感じで、お出かけを楽しんでいる私たちだった。
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