第34話「みんなへのありがとう」

 アイスを食べた後、今度は昼ご飯を食べようかと話して、私たちはハンバーガー屋に来た。なんか食べてばかりだが、これも高校生らしいのかなと思った。

 中はけっこう人がいたが、なんとか席も確保できて、注文をして座った……けど、涼子がさりげなく私を凌駕くんの隣に座らせた。そ、そこまでしなくていいのに……私はまた顔が熱くなってきた。


「よっしゃ、いただきます……あ、久しぶりに食べたけど、美味いな」

「ほんとだねー、美味しいー! 私ナゲットも頼んだからさ、二人も食べてー」

「ありがとう……うん、美味しいね。私も久しぶりに食べたかも……」


 私はてりやきバーガーにした。小さい頃からこの味が好きだった。普通のハンバーガーにはピクルスが入っていて、最初はあれが食べられなかったっけ。なんだか懐かしい気持ちになった。


「俺さ、昔ピクルスが食べられなくてさ、うげって言ったら親に怒られたよ」

「あ、私も一緒……ピクルス苦手だったよ。だからてりやきバーガーを食べるようになって……」

「あはは、お二人は似た者同士ですなぁ。うんうん、いいと思いますよぉー」


 涼子がニヤニヤしながら私と凌駕くんを見ていた。あ、あまり言うと凌駕くんにバレるのでは……と、私はヒヤヒヤだった。


「な、なんだ? まぁいいか。今日は平日だけど、俺らみたいな高校生も多いみたいだな。やっぱ夏休みだからかな」

「ほんとだねー、まぁみんな夏休みは遊びたいってもんよ! あ、今日も弟と妹が一緒に行きたいって言ってたんだけど、お断りしてきたよー」

「そ、そっか、連れて来ればよかったのに……」

「いやいや、今日は三人で楽しむことにしてるからねー。弟と妹はまた今度連れて行ってあげるよって約束したんだー」

「そっか、涼子もいいお姉ちゃんやってるなぁ。偉いと思うぜ」

「そんなことないよー。お姉ちゃん勉強しろって言うのがなぁって、ぶーぶー文句言われてるからねぇ。勉強勉強っていつも言ってるおばさんだよー」


 涼子がそう言ったので、みんな笑った。こうして三人で楽しい時間を過ごすことができて、私は嬉しかった。そのことを二人に伝えようと思って、


「二人とも、今日はありがとう……私も元気出たというか、嬉しいというか……こうして三人で来れて、よかったなって」


 と、言った。それを聞いた二人は笑顔でうんうんとうなずいた。


「うんうん、小春が元気そうでよかったよー。小春もさ、きつい時もあると思うけど、高校生らしく楽しむ時間も大事だと思うよー」

「おう、小春が元気だと嬉しくなるな。楽しいことをやれば、気持ちも楽になるだろうし、いいんじゃねぇかな。でも無理はするんじゃねぇぞ」

「う、うん、今日は大丈夫……一応頓服のお薬も持って来てるけど、今日は飲まなくても大丈夫そうだよ。あ、それと……」


 私はもう一つ伝えたいことを思い出して、話を続けた。


「そ、そういえば、いじめのこと、先生たちに伝えることができたよ。松崎先生も動くって言ってくれて、佐々木先生もきつい時は保健室に来てくださいって……」


 なかなか大人に話せなかったいじめのこと。今思っても話せてよかったなと思った。二人をみると。真面目な顔でまたうんうんとうなずいていた。


「そっか、よかったね。小春も先生たちに言うの、すごく勇気がいったと思うけど、これでいい方向に進むといいね」

「そうだな、先生たちならなんとかしてくれるだろう。あとは小春の体調だな。いじめがなくなったからといって、すぐによくなるもんでもないだろ?」

「う、うん、そんなにすぐはよくならないと思う……だから、また二人には迷惑をかけてしまうことがあるかもしれないけど……」

「大丈夫だよ、いつも言ってるけど、迷惑なんかじゃないしさ。私たちもいつでも小春の味方だよ。安心してね」

「おう、もしあいつらがまた何か言ってきたら、俺らに頼ってくれよ。小春は一人じゃない。小春の味方はたくさんいるぞ」


 二人がそう言ってくれた。私は一人じゃない。涼子や凌駕くんや、周りの大人たちが私を支えてくれる。私は嬉しくなった。


「……ありがとう……ほんとにありがとう……」


 私はそこまで話して、うるっときて目に涙が浮かんできた。あ、あれ? み、みんなで楽しくやってるのに、なんで泣いているんだろう。恥ずかしくなって顔を手で覆うと、そっと頭を触れられた。横にいた凌駕くんが頭をなでてくれているみたいだ。


「……あ、ご、ごめん、恥ずかしい……」

「いいんだよ、ほっとして涙が出たんだろ。小春は優しいな。そこが小春のいいところだ」

「うんうん、なんか小春の涙見てると、こっちもぐっとくるものがあるよ」

「う、うん、私、これからも頑張る……」

「よっしゃ、食べ終わったら、また見て回ろうぜ」

「そだねぇ、まだ見てないところもあるから、後でいきますかー」


 それから私たちはまたショッピングモールを見て回った。楽しい時間を過ごしていることに、感謝の気持ちでいっぱいになった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る